第153話 朝子の運命の日
「絢香、やっぱあいつおかしいよな?」
「音無鳴?」
「もち」
「色々おかしいよね、おっぱい触っても揉んでこなかったし」
「そりゃそうやろ! 彼女が目の前におったんやから!」
「修羅場にならなくてよかった」
「充分なっとったわ!」
「相変わらず遠慮のないツッコミね」
「誰がそないさせとんねん!」
「まあでも……あの子の作る空気は、極上だったね。朝子も頑張ってね」
「分かってる!」
今日の軽音フェス、絶対優勝できる思ってた。実際あいつさえ来んかったら優勝できとった。
音無鳴。
ウチの人生に立ちはだかる大きな壁。
クラシックギターの時もそうや。クラシックギター界の神童って言われとったウチの前に突如として現れて、根こそぎ優勝をかっさらっていきやがった。
しかも本職はクラシックじゃなくてフラメンコやと!
ほんま、しばいたろかと思った。
音無鳴が出んようになってからは、音無凛が出てきて根こそぎ優勝をかっさらっていった。
こいつも本職はフラメンコや。
おかげでウチの部屋は準優勝の楯だらけや。
でも……今日の演奏はほんまにヤバかった。テクだけやったらいずれ勝てる思ってたけど、ちゃうかった。
あいつはテクだけやない。
むしろテクは……なんや劣化しとった。クラギやったらウチの勝ちや思う。
音無鳴のエグいところはプレイがエモいのは勿論のこと、観客ごと巻き込んでしまうあいつの作り出す空気や。
ヤバイやっちゃで……。
歌姫の歌もエグかったけど……あれは音無鳴の演奏やからちゃうんかって疑うほどや。
その証拠にさっきのセッション。
歌姫と絢香はいい勝負しとった。
絢香の歌は歌姫に負けてへん。
負けとったんはウチや。
ウチが圧倒的に音無鳴に負けとったんや……。
それやのに、ウチはあいつとセッションして何とも言えやん高揚感に浸ってもうた。
ウチもあいつの空気に呑まれたんや。
一曲目のBメロのところもそうやけど、あいつの判断は的確やった。
曲のためなら他人のヴィンテージギターであろうが構わずスラムするほどの節操の無さもある。
ウチにはできひん。
「なあ、絢香」
「うん?」
「ウチどないしたら音無鳴に勝てるやろ?」
「音無鳴にギター習えば? オンラインレッスンでもなんでもあるでしょ?」
ウチが音無鳴に習う……。
「連絡先も交換したし、頼んでみれば?」
確かに悪くない……でも引き受けてくれるんか。
「報酬は私が身体で払っとくし」
「アホか! あかんわ!」
つか、散々にくたれ口叩いたんやし……結衣にとりなしてもらうか。
今朝起きた時はこんなことになるとは思わんかった。
今日はウチにとって運命の日かもしれん。
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