第151話 城ホール前でセッション
全く関係ない話なのだけれど、なんで朝子さんも木村さんも『音無鳴』フルネーム呼びなんだろう。そんなことを考えている間に僕たちのセッションが始まった。
朝子さんのギターはエモいのだけど、僕的には少し上品なイメージだ。
別に嫌いじゃないけど、この曲で折角オーディエンスもいるんだからこのノリじゃない。
僕は極端にリズムにメリハリ付けてオーディエンスを煽った。
オーディエンスの反応は上々だが朝子さんの反応は……すっごい困った顔で僕を睨んでいた。もしかしてアドリブが苦手なのだろうか?
つか、こんな時まで譜面を……。
朝子さんはそのキャラに反して真面目なんだと理解した。
僕は朝子さんに寄っ掛かり、わざと譜面立てを倒した。
『何すんねんワレ!』って声が聞こえそうな勢いで睨まれたが、僕は悪くない。
コレはセッションなんだから。
でも、このノリをピークに持って行っても衣織と木村さんに渡すにはまだ足りない。
60万のギターでコレをやるのは抵抗があるけれど……僕はスラム奏法を織り交ぜ更にノリを出した。
朝子さんも戸惑いながらも付いてきているし、オーディエンスの仕上がりも上々だ。
即席ユニットだけどなんとか場を整えることができた。
そして……衣織と木村さんの歌が入った瞬間僕は鳥肌が立った。
2人は歌い出しからハモリを入れて来たのだ。音取り練習のそぶりもなかった。
ガチぶっつけ本番だ。
恐ろしいまでのセンスだ。
これにはオーディエンスも大盛り上がりだ。ハモリは一般的にも知れているテクニックだからだろう。
特徴的な2人の声が合わさるとこうなるのか……僕はいつも以上にテンションが上がってしまった。
展開が変わる場面になり2人は持ち前の声量活かしクライマックスへの道筋を演出する。
これはシビれる。
木村さんの中低音と衣織の中高音。この組み合わせって最強じゃね? と思ってしまうほどだ。
でも関心ばかりはしていられない。僕も朝子さんも、もっとグルーヴを出さないと2人の声量に負けてしまう。
言うなればここは楽器隊と歌い手のバトルだ。
僕は朝子さんにアイコンタクトでそれを促した。
朝子さんも察していたようで、ちょっとは良くなったがまだ固い。
朝子さんの演奏は喋り方に反して基本的に上品なのだ。きっとそのことが色々と足かせになっているんだろうと暗に想像できた。
だから僕は朝子さんと背中合わせになり耳元で「だから負けたんだ」と囁いた。
それで火がついたのか、ぐいぐいと背中で押し返してきた。それと同時にサウンドも強くなった。煽るためとは言え朝子さんごめんなさい。
朝子さんの
僕はぞくぞくするのが止まらなかった。
僕のギターと絡む朝子さんのギター。
華のある2人のシンガーによって奏でられるハーモニー。
そして異様な盛り上がりを見せるオーディエンス。
いままで味わったことのない刺激だ。
——その後も人だかりは増え続け、アンコールに次ぐアンコールで、結局僕たちは5曲ほど一緒に合わせた。
ヘトヘトになったけど、それに見合う感動を得ることができた。
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