第150話 城ホール前で修羅場

 ご褒美から一転修羅場へ……僕、何も悪くないよね?


「あんたもいつまでそうやって抱きついてるわけ? 離れなさいよ」


「えーやだ」


「やだじゃないわよ」


「あ——っ! こいつ、どさくさに紛れておっぱい触っとる!」


「ちがっ、まじ抜けられないんだよ」


「エッチ」


「自分でやっといて!」


「鳴!」


 カオスだ……もう助けてほしい。


「あれ? もしかして音無鳴と歌姫、付き合ってる?」


「はい……」「そうよ!」


 ようやく、木村さんが離してくれた。


「なーんだ、もっと早く言ってくれたらいいのに」


 全く悪びれない木村さん。


「見たらわかるでしょ!」


 さっきまでの上機嫌がどこかへ行ってしまった衣織。


「つか、自分……なにちゃっかりいい思いしてんねん」


 ブレない朝子さん。


 なんか、どっと疲れた。


「バンド内恋愛って……御法度なバンド多いからさ、付き合ってないと思ってたよ」


 そうなのか……僕はバンド歴が浅いのでその辺のお約束事の知識は乏しい。


 そして改めて僕をじーっと見つめる木村さん。


 相変わらず、近い!


 ぱっちり二重におそらくカラコン。僕の周りにはあまりいないカッコいいに振り切ったスタイル。


 まあ、もちろん可愛いから、この距離だと無駄にドキドキしてしまうんだけど。




「私とする?」


「は……?」「ちょ!」「おま!」


「あーセッションだよ、セッション」


 心臓に悪い人だ。


「これも何かの縁なんだし、折角だからヤろうぜ!」


 言い方……。


「歌姫も一緒に! 定番の曲ならいけるでしょ? ギャラリーもいるし」


 衣織と顔を見合わせると『仕方ないな』って感じの表情だった。


「分かったわ。でも、疲れてるから一曲だけよ」


 衣織がいいというなら問題はない。僕たちは急遽セッションをすることとなった。


 でも、これは普通に願ったりかなったりだ。


 合わせてみたいと思った朝子さん。


 そして心を奪われた木村さんの歌。


 ラッキースケベより、全然ラッキーだ。


「音無鳴はこのギター使って」


 無造作に手渡されたのはヴィンテージのドレッドノートだった。


 僕、アコギの相場は詳しくないけど多分このギター60万円ぐらいはする。


「音無鳴、この曲でええか?」


 朝子さんが指定した曲は、まあど定番の曲だった。衣織も鼻歌で歌っていたことがあるから問題ないだろう。


「大丈夫です」


 朝子さんと軽くキメの打ち合わせだけした。まあ僕も彼女もお互いの演奏を知っているのだから細かいところはアイコンタクトでなんとかなるだろう。


 さあ、セッションを始めようか!


 疲れていることもあり、無駄にテンションが上がる僕だった。



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