第149話  城ホール前で……

 大阪城の夜景を堪能した僕たちは、大阪城ホール経由で帰ることにした。


 大阪城ホールは国内問わず有名アーティスト御用達の、ミュージシャンなら憧れる西の聖地だ。


 当然中に入ることはできないが、折角近くにいるんだから雰囲気だけでも味わいたい。


 僕たちもメジャーになって有名になったら、大阪城ホールでライブができるのだろうか?


 そんな夢みたいな話をしていると足取りも軽やかだった。



 ——大阪城ホールに着くと弾き語りの声が聞こえてきた。ストリートミュージシャンだろうか。


 周辺を見渡すと、大阪城ホールの階段を降りたところにある噴水の前に、人だかりができていた。



「ねえ、ちょっと行ってみる?」


 衣織は興味津々のようだ。


「うん」


 ちょっと待てよ……つか、この声……聴き覚えがある……まさか。


 ビンゴだった。


 木村さんと朝子さんが、アコギ片手にデュオで弾き語りをしていた。


 軽音フェス終わったばかりなのに……恐ろしくタフだ。


 昼間のライブと違いパワフルさは控えめだけれど、朝子さんが所々で入れるハモリとギターの遊びがアクセントになってとても素敵な雰囲気を醸し出していた。


 人だかりが出来るのも納得だ。


「あ」


 木村さんが、こっちに気付いて大きく手を振っている。


 衣織がジト目で僕を見つめていたが、無視するのも失礼なので小さく手を振り返した。


「音無鳴!」


 そしてすごい勢いで走ってきて僕に飛びついてきた。


 衣織の時みたいに転んでしまうことは無く『転んだ拍子にキス』は回避できたのだが……。


 右手が『ラッキータッチ』になっていた。


「おー音無鳴、どこ触ってんだ? ヤル気満々だな」


「ご、ごめんなさい!」


 慌てて離れようとしたけど、無理だった。木村さんにがっしりホールドされているからだ。


 フェスの会場でも思ったけど……なんと言う力だ、全然離れない。


 むしろ無理に離そうとすると、さらにおっぱいを掴んでしまうことになる。しかもスレンダーなのにまあまあ大きい。


「ちょっと、いつまでくっついてるのよ!」


「ん、あなた確か……」


「衣織、窪田衣織よ!」


「そうそう、音無鳴のバンドの歌姫」


 木村さんは話している間も力を弱めない。


「ちょ、絢香マジ早よ離れや!」


「え——っ」


「『え——っ』ちゃうってほんまに!」


「鳴もいつまでくっついてるの!」


 状況を整理すると、僕は女の子に抱きつかれていて、その子のおっぱいを触っている。


 その隣には僕の彼女。


 その反対側の隣には女の子の仲間。



 そして周りもザワつきはじめた。


 どうやら僕は、大阪でも平穏でいられないようだ。


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