第148話 ご褒美
夜の大阪を衣織と手を繋いで歩く。こんなシチュエーションになるなんて出発前は想像していなかった。本当にご褒美だ。
「昼間は暑かったけど流石に、夜は冷えるね」
ゆったり目のティーシャツにキャミワンピの衣織。確かに冷えるかもしれない。
「そうだね」
かくいう僕はティーシャツ一丁だったりする。さすがに「これ羽織って」とは言えない。
つまりこの場合の最適解は……肩を抱き寄せる、腕を組むのいずれかだ。
肩を抱き寄せて歩くと、密着度とともに体温が上がり、肌寒さは解消できる。でも、絶対歩きにくい。
肩を抱き寄せるほどではないが、腕を組むのも密着度が上がり肌寒さは解消できるだろう。
故にこの場合の最適解は『腕を組む』ことだと思う。
でも……腕を組むってどうすればいいんだ?
さりげなく、腕をさしだして「ほら」とか言えばいいのか?
男から自然に腕を組むって……何気にハードルが高いのではないだろうか。
「ねえ、腕組んでいい?」
なんということでしょう! 衣織は僕の心が読めるんじゃないだろうかと本気で思う。
「うん……」
心も身体もホットになった。むしろ緊張で脇汗が気になるぐらいだ。
「見て」
衣織が指差す方向を見るとライトアップされた大阪城天守閣が見えた。
「私、お城とかあんまり興味無いんだけど、なんかいいね」
同感だ。僕もあんまり興味はない。でもなんかいい。
大阪城を見上げる衣織の横顔。
「綺麗だ」
「うん、ちょっと幻想的だよね」
いや衣織が……我ながらベタな事をやってしまった。この状況だと絶対そうなるのに。思わず赤面してしまうレベルだ。
「ねえ鳴、ありがとうね」
「え」
衣織の方へ振り向くと、不意打ちのキスが待っていた。
全く予想していなかった分、ドキドキか半端ない。
「今日のご褒美」
ご褒美いただきました!
ありがとうございます!
でも、ご褒美を貰えるような事、僕はしていないつもりなんだけど……。
「鳴には凄いところまで、連れてきてもらっちゃった……」
「凄いところ?」
「優勝もそうだけど、今日のライブ……あれヤバくなかった?」
「びっくりするぐらい盛り上がったね」
「うん……私、パパがなんでメジャーを目指せって言ったか、今日やっと分かった」
僕も分かった。
「鳴が空気を作れるからなんだね」
へ……なにそれ?
僕がよく分かっていない顔をしていると、衣織は周りを確認してから僕の首に手を回し、熱いキスを……今度は濃厚なやつだ。
「今度ゆっくり教えてあげる」
教えてあげるって何?
この続き?
色んな期待に胸が膨らむ僕だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます