第143話 全国のレベル
個人的にカバー部門は『すっぴん』で決まりと思っていたが、カバー部門のトリを飾ったバンドが圧巻のパフォーマンスを見せ雲行きが怪しくなってきた。流石全国大会、一筋縄ではいかない。
ステージングは互角。技術面ではやや劣っている。観客の盛り上がりは若干『すっぴん』に分があったように思われるが、審査員の判断が別れるところだろう。
——そしてオリジナル部門のステージが始まった。
オープニングを飾ったバンドの曲はライブに極振りしたアレンジだった。カバー部門と違いオリジナル部門の曲は一般に認知されていないため観客はノリにくいものだ。しかしそんなオリジナル曲の弱点を見事に克服し、のっけから客席と一体感を出してた。これは凄い!
きっとどのバントもこの日のために厳しい練習を積んできたと思う。
繰り返し何度も練習してきた曲も、本番では一度しか演奏できない。ありきたりだが、悔いのないステージを心がけようと思っていた。
僕たちの出番が近づきスタッフから声が掛かった。
時枝の緊張が心配だったが、もう何食わぬ顔で場の雰囲気に馴染んでいる。ある意味恐ろしい奴だ。
「音無鳴、いよいよやな」
バックステージ到着すると先に待機していた朝子さんに声を掛けられた。本番直前なのに余裕の表情だ。
「トリは譲ったったけど、優勝は譲らんで、そこで指くわえてウチらのステージ見とき。バンドのイロハ教えたるわ」
朝子さんのお約束の会話で場がなごみ、緊張がやわらいだ。
なんか……ありがとうございます。
前のバンドの演奏が終わり、朝子さんたちがスタッフに案内されステージに。
「朝子さん! 頑張ってください!」
「あ、あほちゃうか! 敵に塩送ってどないすんねん!」
それ、思いっきりブーメランだからと思ったが、そこにはあえて触れなかった。
——朝子さんバンドのステージは口ほどのものだった。
バンドとしての完成度もさることながら、朝子さんのギターがエモ過ぎた。僕の目からみて今日No1のギタリストだ。
同じステージでセッションしたい。そんなことすら考えてしまうほどだった。
そして、朝子さんよりも目を引いたのがヴォーカルの女の子だ。
衣織の歌をはじめて聴いた時と同じ衝撃だ。
タイプこそ衣織と違うが彼女のパワフルでソウルフルな歌に僕は魅了された。
彼女には衣織と同じく、華がある。
オーディエンスは彼女の歌に聴き入っていた。
圧倒的歌唱力から繰り出される、彼女の切なくて儚げな歌に。
僕の頬に一筋の涙が伝った。
本番直前なのに心がかき乱されてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます