第140話 野音へゴー

『全国高校生軽音フェス』本選は『大阪城音楽堂』で行われる。コンクールで何度か大阪に来たことはあるが、大阪城ははじめてだ。


「ちょ、お前ら勝手にうろちょろするなよ!」


 と言い、僕たちを引率するのは我が軽音部顧問の寺田先生だ。


 寺田先生はさらさらストレートロングで、ロックな雰囲気を醸し出すカッコいいお姉様だ。


 林先輩がガチで惚れてるって話を聞いたことがあるだけで、実際にお会いするのは今日がはじめてだ。



 ——会場に近づくと、マイクや楽器など、機材のテスト音が聞こえてきた。いよいよって感じだ。


 僕たちは集合時間より随分早く到着したのだが、他にも多数の出場校が集まっていた。皆んな気合いが入っている。


 そして、出場校の中の1校の女生徒が、こちらを見て大きく手を振りながら近付いてきた。


「結衣お久!」


「お——っ朝子あさこ、久しぶり! 元気してた?」


 どうやら結衣さんの友達のようだ。


「うん元気やで! 何や自分、めっちゃ喋り方かわってもうてるやん」


「いやいやいや、ウチ元々そんなに関西弁キツくないから」


「そうやったっけ?」


 そういえば結衣さんは、実家を離れてお姉さんと2人暮らしだった。関西出身だったのか。


「皆んな紹介するよ、彼女はウチの幼馴染で徳島朝子とくしまあさこ。めっちゃギター上手いんよ」


「めっちゃ上手いって結衣、照れるやん! まあ、それほどでもあるけどな!」


 あっさり認めた……これが関西ノリってやつか。


「結衣んとこは、オリジナルで出るん? カバーで出るん?」


「両方だよ!」


「うそん! マジで! 凄いやん!」


「へへへ、ありがとう。ウチはカバー部門だよ」


「そっかそっか! じゃあまだ結衣のバンドは優勝の可能性あるね!」


 む、それはまさか。


「オリジナル部門はウチのバンドが優勝するからね!」


 やっぱりだ。自信も有るんだろうけど、凄いリップサービスだ。


 そんな2人の様子を関心しながら見ていると、朝子さんと目があった。


 とりあえず会釈を返すと、朝子さんは僕の方まで歩いて来てずいっと顔を近付けた。

 

「ん、ちょっと自分……」


 近い近い! パーソナルエリアどうなってるんだ。


「音無鳴やん!」


『『え!』』


 朝子さんが僕を知っている?


 徳島朝子……僕の知り合いにはいないはずだけど。


「兄貴、知り合いか?」


「あ——っ! 音無凛!」


『『え!』』


 朝子さんが僕たちの名前を呼ぶと周りが騒ぎはじめた。



「音無鳴だって」


「音無凛もいるって」


「え、まじで音無兄妹」



 そんな声が方々から聞こえてきた。


 僕たちそんなに有名人だっけ?



「音無兄妹……もしかして『軽音フェス』に出るんか?」


「あ、はい一応、オリジナル部門で」


「そ、そっか」


 朝子さんに凄い形相で睨まれた。


「今日こそ長年の雪辱を晴らすで……首あらってまっときや!」


 長年の雪辱? え、まじ分かんない……どうしよう。


『全国高校生軽音フェス』は波乱の幕開けだった。



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