第139話 ケジメある行動

 ガチャガチャンっと食器を落とす音が聞こえたので、シンクの方を見ると洗い物をしていた凛の手が止まり、目を見開いてこっちを見ていた。


 アンが僕にキスをしたのを目撃されてしまった。


 僕は蛇に睨まれた蛙のように、その場から動くことが出来なかった。


「兄貴、話がある。ちょっとそこで待ってて」


 凛は洗い物を続けた。


 話って絶対今のことだよね……。


 僕はそんなことを考えながらも、落とした食器が割れていなくて良かったと思った。



 ——「なあ兄貴、兄貴は隙が多すぎるんだよ……さっきのアンのキスとか衣織さんに話せるのか?」


 いつになくエキサイトしている凛。ごもっともです。


「兄貴だけが悪いとは言わない。でも穂奈美のおっぱい事件もあったばかりだろ?」


 不可抗力な面もあるけど、もっと用心していたら避けられたはずです。いや避けられたのか?


「昼間だってそうだ。皆んなの前で衣織さんとキスして、胸まで触って……時と場所もわきまえられなくなってきたのか?」


 今日のは多分、僕には回避不可能だったと思うのですが……むしろ回避していたら衣織が大惨事に。


「なんとか言ったらどうなんだ?」


「いや、確かに結果だけ見ればそうなのかもしれないけど」


「いいわけは要らない」


「うっ……」


 だって、何とか言ったらどうなんだって言ったじゃん。


「まあ、凛が言いたいのはもっとケジメのある行動をしろってことだよ」


 結果だけで見れば言われても仕方がない。反省します。




「じゃあ、本題に入るぞ」


 え……今までの本題じゃなかったのか。


「衣織さんと愛夏が会って話したらしいぞ」


「え、衣織と愛夏が」


「何を話したかまでは聞いていないけど、愛夏の本音を兄貴と衣織さんに話したことは愛夏にも伝えた。だからその辺なんじゃないか」


「そうか……」


 僕は愛夏の本音を聞いて、ひとつモヤモヤしていることがある。


 それは僕が依存していただで、愛夏のことを愛していなかったと、彼女が思っていることだ。


 確かに依存は強かったかも知れない。


 でも、それだけじゃない。


 僕なりにちゃんと愛夏を愛していた。


 フラれた時もめちゃくちゃショックだったし、立ち直れるのかすら不安だった。


 まあ、もやもやしているだけで、今更そのことを愛夏に伝えたからって、愛夏も僕も救われるわけではない。もう終わったことだ。


「凛は、兄貴にも愛夏と話して欲しいと思ってるんだ」


「何をだよ」


「好きだったんだろ? 愛夏のこと」


「え」


「まあ、今更そんなこと愛夏に話したところで愛夏が救われるわけじゃない。でも凛は兄貴の口から伝えてあげで欲しいと思っている。別に今じゃなくてもいい。その時がきたらね」


 お前エスパーかよ……って思った。


 凛の言うケジメある行動ってのは、その辺も含まれるのだろう。


 


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