第136話 下宿

 今日はライブ準備や撤収、そして恒例の時枝の長話でいつもよりも体力的に疲れた。


 凛も慣れない力仕事なのに、いつになく頑張ってくれてお疲れの様子だった。だもんで道中に帰ったら直ぐにお風呂を入れて欲しいとリクエストされていた。


 家に着くと僕は玄関に荷物を置いたまま、バスルームに向かった。



 そして脱衣所で……、



 ばったり真っ裸のアンと鉢合わせした。



 なんで……。



「ナ……ナル・オトナシ」



「や……やあ、アン……」



 これは事故だ。僕は悪くない。でも何かしらの制裁はうけることは確実だ。だからせめてガン見して、アンのあられもない姿を目に焼き付けておくことにした。


「いやっ!」


 アンは恥かしさのあまり、その場にしゃがみ込んでしまった。罪悪感が半端なかった。


「ご……ごめん」


 慌てて脱衣所を飛び出すと、父さんと凛が談笑していた。アンは父さんが連れてきたようだ。


「鳴か、手遅れだったようだな……」


 なに冷静に分析してるんだよ。


「ていうか何でアンが家にいるの? 父さんも帰ったんじゃなかったの?」


「父さんは休暇をとった、しばらく家にいる」


「ア、アンは?」


「アンは父さんが日本にいる間、レッスンをすることになった」


 舌ったらずだよ……だからって何でバスルームにいるの!


「じゃなく……なんで風呂に?」


「しばらく下宿するからだ、部屋は余ってるんだし問題ないだろ」


 いやいやいやいやいやいやいやいや……いま問題起きたよね?


「つか、父さん……アンはプロミュージシャンかもしれないけど、年頃の女の子だよ?」


「ん? お前には衣織ちゃんがいるし、家には凛もいる。問題ないだろ」


 いやいやいやいやいやいやいやいや……いま問題起きたよね? 『手遅れだったようだな……』とか言ってたよね?


「なんなのナル・オトナシ、私がここにいるのが嫌なの?」


 アンの声に振り返った僕は言葉を失った。


 透けてはいないけど……ネグリジェ? ショートパンツと上下セットのルームウェアは僕には刺激が強すぎる。谷間バッチリです。


「いや」


「嫌?」


「ちがう!」


 日本語ってややこしい。


「嫌じゃないです」


「さっきのは貸しにしとくから!」


 アンは頬を赤らめて客間に消えていった。


「よかったね、兄貴。ちゃんと衣織さんに話さないとね」


 嬉しそうに話す凛。


 そりゃ、世界的に有名なギタリストが下宿するのは悪く無い話だけど……。


 おっぱい事件と言い、今朝の学園SNSと言い、女難の相が絶対出てるはずだと思う僕だった。

 


 ————————


 【あとがき】


 女難の相……久しぶりに聞いた気が(笑)


「幼馴染が学園のアイドルに告白されて付き合うようなことになっても私は後悔はしない」

 https://kakuyomu.jp/works/1177354054896365115


 本作のスピンオフである上記拙作が、5月5日の恋愛部門日間1位を獲得することができました!


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