第132話 衣織と愛夏その2
弦を買いに出かけてばったり愛夏さんと会い、会話の流れで彼女とお茶をすることになった。
愛夏さんは同じ学園の後輩だけど、私の彼の元カノだ。
シチュエーションとしてはヤバ目である。
「あの……凛から聞きました。
鳴と別れた理由、鳴と窪田先輩に話しちゃったって……」
心なしか愛夏さんに元気が無かったのはそう言うことか。
「そのことで、窪田先輩にもご迷惑をかけてしまって、すみませんでした」
「迷惑だなんて……私たちの問題だから気にしないで」
ちょっと挑戦的な言い方だったのに愛夏さんの表情は沈んだままだった。
料理対決をした時の愛夏さんなら、何か言い返して来たと思うのだけど……私が大人気ない対応をしただけなってしまった。
「私、窪田先輩には感謝しているんです」
「感謝?」
なんで私に感謝なんか……私が現れなかったら、今頃の鳴の隣にいたのは愛夏さんだったかも知れないのに。
「私、なんだかんだ言って自分が逃げ出したかっただけなんです。
私と鳴が別れても、鳴が良い方向に向かってくれる保証なんて、どこにもなかったのに……
もし衣織さんと出会っていなかったら、鳴は今も……」
カッチーン。
今の言葉、頭にきましたよ。
私の鳴は、私の愛する彼は。
そんなにヤワじゃない。
「愛夏さん、それは鳴を見くびり過ぎよ」
私は語気を強めて言ってやった。
「え」
「鳴はそんなに弱くないしバカじゃない。あんなに不自然な別れ方したんだから、近いうちに必ず気付いていたわよ」
「そ……そうでしょうか?」
「そうよ、鳴なら自分で気付いて愛夏さんの気持ちに応えていたと思うわ、だからそんな風に考えるのはあなたのエゴよ」
目を丸くして驚く愛夏さんに、私は続けて言ってやった。
「だから逆よ、愛夏さんが別れてくれたから私たちは付き合えたのよ」
しばらくの沈黙の後、愛夏さんがジト目で私を見つめる。
「窪田先輩……それ感じ悪いです」
少し元気を取り戻してくれたようだ。
「でも事実よ」
私には愛夏さんの気持ちが痛いほど分かる。
鳴ほどの才能を飼い殺してしまう怖さは、当事者にしかわからない。
でも……それでも私なら、たとえ鳴の将来の芽を摘んでしまう結果になっても別れなかったと思う。
幸せの形なんていくらでもある。
鳴の才能に惚れ込んだ私ではあるけど、それだけが彼の全てではない。
「窪田先輩、私はロングスパンで考えています」
「ん?」
「今は2人の幸せを祈っていますが、もし怪しくなったら遠慮なく奪っちゃいますので」
この子、案外したたかだ。
でも、その方が好都合だ。
私も遠慮しなくて済む。
「なら、愛夏さんは相当長生きしないとダメね」
「なぜですか?」
「私が、死ぬまで鳴を離さないからよ」
「え——っ、それ重いですよ」
このあと愛夏さんに弾き語りのコツやオススメの教材などを教えてあげた。
この時の私は、まさか彼女があんなことになるとは思ってもみなかった。
————————
【あとがき】
衣織節炸裂でした。
「幼馴染が学園のアイドルに告白されて付き合うようなことになっても私は後悔はしない」
https://kakuyomu.jp/works/1177354054896365115
本作のスピンオフである上記拙作が、5月5日の恋愛部門日間1位を獲得することができました!
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