第131話 衣織と愛夏

 私は最近、密かにアコギを猛練習している。


 我が愛するバンド『織りなす音』のメンバーの演奏に触発されたからだ。


 鳴と組むまでは私もアコギ1本で頑張っていて、それなりにギターに自信もあった。一時はフォークソング部に本気で転籍してやろうかと考えていたぐらいに。


 でも、そんな私の自信を根こそぎ持っていたのが鳴。


 今となっては鳴だけではないけれど……。


 鳴、凛ちゃん、時枝、穂奈美。今年の1年はとにかく凄い。私も負けてられない。


 

 意気込みが空回りしたのか、ついつい力んでしまい練習中に4弦を切ってしまった。変え弦のストックも切れたので、気分転換を兼ねて、いつもの楽器屋さんに弦を買いに出かけた。


 鳴を誘うか迷ったけど、誘ったら無理をしてでも出て来そうなのでやめておいた。




 ——そして楽器屋で意外な人物に会った。


「「あっ」」


「こんにちは窪田先輩」


「こんにちは愛夏さん」


 鳴の幼馴染であり元カノの愛夏さんだ。


 愛夏さんは真新しいギグバッグを背負っていた。たぶん中身はアコギだと思う。


「愛夏さんそれ……アコギ?」


「はい、今買ってきました」


 今買った……屈託のない笑顔で答える愛夏さん。でも心なしか元気がないように感じる。


「アコギ始めるの?」


「はい、実は少し前から考えてたんです。衣織さんと女装していた鳴のライブを見た時から……」


 女装……バレてる。


「あはは、女装ね……やっぱり分かっちゃった?」


「はい……凛とそっくりだったので……」


 流石に兄妹を知る幼馴染の目はごまかせなかったみたいだ。


「窪田先輩、今日はお一人ですか?」


「うん、弦を買いに来ただけだから」


「そうなんですね。あの……もしよかったら少しお話ししませんか?」


 お……おう……意外な展開になってきた。でも、凛ちゃんから話を聞いてから、私も愛夏さんと話してみたいとは思っていた。


「分かったわ。じゃぁ先に、弦だけ買ってくるね」


「はい、ありがとうございます」


 でも、彼女が私にしたい話ってなんなんだろう。


 改めて宣戦布告でもしたいのだろうか。


 愛夏さんがなぜ私と話したいのか分からないけど、とりあえず私は買い物を先に済ませた。



 ——これは後日談なのだけれど……私は動揺していたのか、ピックだけを買って弦を買っていなかった。


 そんなわけで翌日、鳴を誘って弦を買いに行った。





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