第130話 織りなす音ファーストライブ

 全校集会、ホームルームが終わりいよいよゲリラライブだ。まあゲリラライブと言いながらも学園側にはきっちり許可は取っている。


 準備時間が掛かれば掛かるほどギャラリーが減る。ここは時間との勝負だ。


 部室に集合せず、僕たちは各々正門前広場に向かう。


 集合場所に部の皆んなの姿はなく、僕と凛が一番乗りだった。


「兄貴、皆んなが来るまでデュオやろうぜ」


「オッケー」


「ハモリの派手なあれで行く」


「うん」


 早速僕と凛はギターを手に取り演奏を開始した。


 指定された曲は凛がレッスン用にわざわざ作ってくれた曲で、派手なテクニックがふんだんに詰まっている。


 速弾きのハモリイントロで何人かの生徒が立ち止まり、人だかりができた。


 仕切りをせずに演奏を開始したせいだろうか……僕は今朝の緊張が嘘のように曲に入ることができた。


 短い小節でリードと伴奏を交代するこの曲は、お互いのテクニックを誇示し、バトルをしているようにも見える。

 

 聴き耳にも見た目にも派手な僕たちのプレイにどんどんギャラリーが集まってきた。


 中盤のハモリアルペジオになったところで、カホンの音が聴こえた。どうやら穂奈美が到着したみたいだ。そして程なくして時枝のベースも加わってきた。


 実はこの曲、2人の特別レッスンでも使っているらしく、2人にとっても馴染みのある曲なのだ。


 そしてサビに差し掛かったところで、衣織がスキャットで入ってきた。


 衣織が入ってきてから明らかに場の空気が変わった。やはり衣織の存在はオーディエンスを惹きつける。衣織はサビの伴奏に合わせ今日の趣旨をうまく告知していた。


 そして僕たちはアイコンタクトで一斉に演奏を止め、僕はセットリストの1曲目のイントロを弾き始る。


 穂奈美がカホンでリズムを作り、衣織が手拍子でそれをオーディエンスに促す。


 イントロの終盤には完全に場の空気が仕上がった。


『織りなす音』としてのファーストライブ。


 本来の形態と違うアコースティック形式だが、




 最高の瞬間だ。




 僕たちが熱くなればなるほどオーディエンスのボルテージも上がる。


 こんな一体感が出せるだなんて……僕は『織りなす音』がもっと高みに行けると確信した。


 オーディエンスの一体感が、これまでのライブとまるで違う。


 衣織の歌が、立ち振る舞いが、オーディンスを含めとめどなく僕たちをノせる。




 この一体感……これこそがライブだ。




 ヤバい、楽しい……そして悔しい。


 もしかして、僕にとって最大のライバルは衣織なのかもしれない。


 そんな風に感じさせるステージだった。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る