第126話 夏休みのある日の出来事

 合宿も終わったので久しぶりにギターのメインテナンスを行なっている。弦交換や各調整をまめに行なわないと、演奏性が変わったり、チューニングが合わないポイントが出来てしまう等の、トラブルが発生してしまうからだ。


 案外ギターはデリケートなのだ。


「ん、兄貴メンテやってんだ」


「うん、合宿で結構酷使したからね」


「確かに……凛もやろうかな」


「お、一緒にメンテとか久しぶりだね」


「誰かさんのせいでな!」


 しまった……墓穴を掘った。


「あ、凛、変えの弦ないや……兄貴予備ある?」


「僕もきっちりしかない」


「買ってきてよ」


「えっ、面倒臭いよ、自分で行けよ」


「兄貴と久しぶりに、一緒にメンテしたいな……凛が用意してる間に兄貴のメンテ終わるだろうな……凛、用意するのに時間かかるもんな」


 凛はチラチラとこちらを見ながら痛いところを突いてきた……あざといやつだ。


「分かった……行ってくるよ」


 久しぶりになったのは完全に僕のせいだ。


 それに僕がギターをやめてからも、凛が1人でこの作業をやっていたんだと思うと胸が痛む。




 ——駅に向かう途中でばったり愛夏とあった。愛夏は駅前の書店に向かう途中らしい。


「合宿行ってたんだ」


 なんで知ってるんだ……って凛か。


「うん」


「楽しかった?」


「うん、なかなか有意義な合宿だったよ」


「そう……衣織さんとは進展した?」


「……」


「図星かな?」


「って、愛夏……僕は一応、愛夏の元カレだからね。話しにくいこともあるんだよ」


「知ってるよ」


 満面の笑みを浮かべる愛夏。


 僕は愛夏の笑顔に胸が痛んだ。





 ——駅で愛夏とわかれてショッピングモールに着くと「「あ」」ばったり穂奈美とあった。


「よう、穂奈美」


「よう、音無くん」


「今日は楽器屋か?」


「うん、音無くんも?」


「うん、一緒にいく?」


「うん、そうね」


 穂奈美が気付いていたどうかは別として、あれから僕は穂奈美に気まずさを感じている。


「ねえ、音無くん」


「どうした?」


「私気にしてないからね」


 ……やっぱ、気付いていたか。


「音無くんが私のおっぱい舐めたこと」


「舐めてねーよ!」


 思わず大声で突っ込んでしまった。


「え、舐めてなかったの?」


 驚きの表情を浮かべる穂奈美に僕は驚く。


「そんなことするわけないだろ! いくらおっぱいが目の前にあっても、メンバーのおっぱいは舐めないよ!」


「冗談よ」


「え……」


 僕は穂奈美の冗談に、凛や愛夏とは別意味で胸が痛んだ。


「音無くんにそんな度胸ないもんね」


「う……心臓に悪い冗談はやめてくれ」


 とにかく面倒ごとにならなくてよかった。




「師匠、穂奈美! 今の話本当なの!」


「「あ」」


 面倒臭いヤツに面倒な話を聞かれてしまった。


 穂奈美と事情を説明して、時枝が納得いくまでに4時間もかかってしまった。


 4時間……凛への言いわけに頭を悩ませる僕だった。




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