第125話 夏合宿の思い出
いよいよ夏合宿最終日、エントリー用動画撮影だ。
本当にあっという間の一週間だった。
僕たち『織りなす音』もうそうだが、古谷先輩率いる『Air Ash』結衣さん率いる『すっぴん』もこの一週間で別バンドに生まれ変わったかのように成長した。
特に『すっぴん』の成長は著しい。
合宿初日は『Air Ash』の方が明らか上だったのだけれど『すっぴん』も『Air Ash』と比べて遜色ないレベルまで仕上がってきている。
練習には『濃度』が重要だとよく分かった。
——そしてエントリー用動画撮影……演奏も大事だがパフォーマンスもアピールポイントの一つだ。
1発撮りだからミスでグダるんじゃないかって心配もあったが全くの杞憂だった。
『Air Ash』はTシャツに短パンというラフなスタイルで激しいステージングを収めた。
普通にかっこよかった。個性の強いメンバーだから絵面的に厳しいかな……と思っていた自分を責めたい。
続いて『すっぴんは』JKブランドをアピールするとのことで、制服を着崩して衣装っぽく見せていた。
男子部員は3人の可愛さに悩殺されていた。肝心の演奏も見た目とリンクした可愛さとお洒落さがきっちり出ていて、僕は個人的にコンセプト勝ちしそうだと思った。エンタメには重要なことだ。
僕たち『織りなす音』は少しかっちりめの普段着で、音楽性に合わせに行った。
あまり派手なステージングを必要としない曲だが、皆んなの演奏に触発された時枝と僕がそれぞれ1回づつミスをおかしてリテイク。
結局3バンドの撮影でリテイクは僕と時枝の2回だけだった。猛省すべき点である。
撮影が終わり後片付けをしていると、学さん、父さん、アンがスタジオにやって来て、突然サプライズライブを開始した。
グランドピアノ、フラメンコギター、エレキギター。
ちょっと大人なサウンドが飛び出してくるのかと思いきや、学さん作曲の名作アニメのBGMなど、僕ら世代鳥肌もののセットリストで、リハーサルスタジオは大いに盛り上がった。
特にメドレーがヤバかった。
本当ならトッププレイヤーの技術を少しでも盗みたいという心理が働きそうなものだが、僕は3人の演奏に完全に魅了されて、いちオーディエンスとしてライブを楽しんでいた。
みんな感じるところがあったと思う。
音楽を見て楽しむ、聴いて楽しむ。
言葉にすると、とてもシンプルなんだけど、そんな演奏ができるアーティストはほんの一握りだ。
合宿の集大成として。
3人からの贈り物は、僕の心にガツンと響いた。
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