第124話 ひとつの夢が叶う時

 合宿の予定も残すは明日のエントリー動画撮影のみだ。


 僕はこの合宿で『織りなす音』の成長に確かな手応えを感じている。


 色々あったけど、いい意味で緊張感があり、とても意義のある合宿だった。


 ——ちなみに夜はあの日以来、特別な事件は起こっておらず、今日も普通に眠りについた。


「……る」


 誰だろう……?


「な……」


 衣織の声……?


「なる……」


 ん……呼ばれてる?


「鳴」


「い……衣織?」


 目を開けると衣織が「シー」っと人差し指を口元にあてていた。


 寝ぼけていて直ぐに事態を飲み込めなかったが、衣織が寝袋のファスナーを開けてくれたことで、なんとなく察した。


 衣織はこっそりと僕を連れ出し別の部屋に案内してくれた。


 これはもしかして、期待してもいいのですか!


 寝起きなのに妙に元気な僕だった。


「合宿お疲れ様、とりあえず座って」


 衣織はベッドに腰を下ろし、その隣をポンと叩いた。僕はそこに座った。合宿中、衣織とは一つ屋根の下にいたけど、この距離になるのはこの合宿ではじめてだ。


「お疲れ様、まだ1日あるけどね」


「撮影って地味に緊張するからハマらないようにしないとね」


「そういや衣織はSNSに上げてたもんね、撮影は慣れてるんじゃ?」


「全然よ! あれなんか、めちゃくちゃ撮り直したんだから」


「えっ そうなの?」


「そうよ……でも、頑張って撮り直してよかった……そのおかげで鳴と出会えたんだもん」


「衣織……」


 僕たちは見つめあってそのまま熱い口づけをかわした……はじめてとしては中々のシチュエーションなのでは? 

 

 僕はそんなことを考えていた。


「ねえ鳴、少し歩かない?」


 どうやら『はじめて』は、今ではないみたいだ。僕は肩透かしをくらったような気分になった。


 しかし夜は長い……まだワンチャンあるかも知れない。


 

 ——でも外に出ると僕のそんな下心はぶっ飛んでしまった。


「綺麗だ……」


「でしょ」


 満天に広がる星の元、僕たちの声だけが響いた。


 そして僕たちは、恋人繋ぎで森の公園に向かって歩みをすすめた。


「私、彼氏と2人でここ歩くの……夢だったんだ」


「衣織……」


 そのパートナーに僕を選らんでいただいてありがとうございます。誰だよワンチャンあるなんて言ってたバカは!


 木々の間から月明かりに照らされる衣織はとても美しかった。


 彼氏の僕としては、これだけでも合宿にきた価値があるってもんだ。



 ——そして満天の星空の元で愛を誓い口づけをかわした。


 部のみんなに見られてるんじゃないかって不安はあったけど……それは杞憂だった。


 改めて衣織の存在を特別に感じた。


 そんな夜だった。


 

 ————————


 【あとがき】


 鳴のご褒美タイムでした!


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