第123話 一触即発

 今日の練習はいつもよりピリピリしていた。何度やってもライブアレンジがしっくりこないからだ。大筋は決まっている筈なのにハマらない焦りが更に空気を悪くした。


「凛、昨日話したところ全然直ってないじゃないか!」


 時枝が少しエキサイトして凛に詰め寄ったが、凛は無言で僕を睨みつけるだけだった。


 そう言えば、昨日も凛は僕を睨みつけていた。僕はダメだしの腹いせだと思っていたけど違うのか?


 だとしたら……。


 僕はアレンジを頭の中で組み立て直してみた。



「凛、聞いてるのか?」


「聞いてるわ、ただでさえ暑いのに、これ以上熱くならないでよ」


「は——っ? テメー自分が出来てないからって人に当たってんのかよ」


「出来てない……それ……本気で言ってるの?」


「やめなさいよ、凛も時枝も」


 ん……衣織が仲裁してる?


 あ……。


 僕がアレンジを考えている間に凛と時枝が一触即発の雰囲気になっていた。


「ちょ、まってくれ時枝」


「は——っ? なんで、あーしなんだよ、妹を止めろよ妹を! もしかして妹萌えか?」


 双子の僕に妹萌えだけはない!


「違うんだ聞いてくれ」


「何がだよ!」


「僕と時枝で凛たちに合わせてみないか?」


「なんでだよ、最初っからここは崩さないって決めてたろ」


「いやだから、そもそもそれが間違いだったかも知れないじゃないか?」


「でも!」


「時枝……」


 穂奈美がうまく時枝をいなしてくれた。でも僕は一身上の都合で穂奈美とうまく目を合わせることが出来ない。


「凛も衣織もいいかな?」


「「うん」」


 そして、問題の箇所を合わせ直してみた。すると……。


 僕たちの音が融合した。


 圧倒的グルーヴ感だ。


 そうか……僕は狙いすぎていたのか……僕と時枝も凛と穂奈美に合わせる必要があったんだ。


 僕はアコースティック色を残すことに固執しすぎて、チグハグなアレンジにしてしまったようだ。


 演奏が終わり、僕と時枝は顔を見合わせた。


 そして……「「ごめんなさい」」みんなに深々と頭を下げた。


 とんだ勘違いだ……凛がこのテイストを苦手としていたんじゃない、僕が理解していなかっただけだ。


 後日、なぜ指摘してくれなかったのか凛にたずねてみたら「自分で気づかないと意味がない」ときっぱり言われてしまった。


 でも、凛に睨まれていなかったら気付けなかった。


 僕はまだまだだ。





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