第127話 愛夏の真相

 凛は誰かと話し込んでいたようで、僕の帰りが遅くなったことについて特に追求される事はなかった。家に帰ってまでおっぱいを連呼せずに済んで一安心だ。


「なあ兄貴、メンテしながらでもいいからちょと話聞いてくれるか?」


 凛が改まって話ってなんだろう。合宿で何か感じることでもあったのあろうか。


「愛夏のことなんだけど」


 愛夏……電話の相手は愛夏だったのか。


「大丈夫だよ。愛夏、今日ばったり会って駅まで一緒だったよ」


「うん、さっき聞いたよ」


 やっぱり電話の主は愛夏だったようだ。


 メンテ道具一式は僕の部屋にあるので、とりあえず凛のギターを僕の部屋に運び込んだ。メンテでも若干音は鳴らすが、話に支障が出るほどではない。


 ギターの弦を外し始めると同時に凛が話し始めた。


「兄貴、誤解がないように先に言っとく。凛は衣織さんのことが好きだし2人の関係を邪魔をしたいわけじゃない。でもこの話は兄貴には知っておいて欲しいし、知っておくべきだと思うから、凛は話そうと思ったんだ」


 凛はいつになく真剣だった。


「凛は回りくどいの苦手だから結論から言うよ」


 僕は凛の目を見てゆっくりと頷いた。


「愛夏は嘘をついてる」


 愛夏が嘘を……?


「あいつ、結局あの時も本当のこと、兄貴に話せなかったんだ」


 あの時って宣戦布告の時か。


「愛夏はな、子どもの頃からずっと兄貴のことが好きだったんだ。……それこそギターを始める前からな」


 え……ギターを始める前からって……。


「それじゃぁ、付き合っていた頃の僕を好きじゃないって言ったのは?」


「それが嘘なんだよ……兄貴、冷静に考えろよ? 好きでもない男の世話をかいがいしくやく女なんていないからな?」


 え……どういうことだ。


「じゃ……じゃぁなぜ愛夏は僕をフったんだ」


「今の兄貴に戻すためだよ」


「今の僕……」


「凛は兄貴と愛夏が付き合う前からずっと相談を受けてた……愛夏は気づいてたんだよ、兄貴が愛夏に依存してるだけだって」


 ……僕が依存。


「愛夏は別にそれでもいいと思っていたみたいだけどな、兄貴の人生を優先した結果だよ」


 ……僕の人生。


「2年半も立ち止まっていた兄貴の足枷あしかせになりたくないって」





 愛夏……。




 

 僕が、気付いてあげれなかっただけなのか。






 ……涙が溢れてきた。






 流石の僕でもこれ以上は聞く必要がなかった。


 愛夏との別れは不自然なことばかりだった。


 愛夏が他の男を好きになる隙なんてなかった。


 別れるつもりなら同じ進路なんてあり得ない選択のはずだった。





 僕が不甲斐ないばかりに、ずっと愛夏を悩ませていたんだ。





 結局僕は、明け方まで泣いていた。


 愛夏の気持ちを考えると涙が止まらなくなった。


 愛夏が僕を見捨てたんじゃなくて……。


 僕が愛夏を見ていなかっただけだった。




 ————————


 【あとがき】


 スピンオフで愛夏の鳴に対する想い、

「幼馴染が学園のアイドルに告白されて付き合うようなことになっても私は後悔はしない」

 を公開しました。


 https://kakuyomu.jp/works/1177354054896365115


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