第120話 僕たちの熱い夏がはじまる

 部屋に案内された僕は早速部屋割りについて切り出した。


「ねえ、僕この部屋にいていいのかな?」


『『は?』』


 皆んなに『なに言ってんの』って顔で見られた。僕……おかしなこと言っただろうか。


「師匠もしかして、女子の中に男子1人っての気にしてるん?」


 まさにその通りだ。


「うん……」


「音無くんってエロいのね」


「……え?」


「「え」じゃねーよバカ兄貴、バンドメンバーのことそんな目で見てんのか?」


「い、いや……そんなわけじゃないけど……」


「鳴、女子と男子である前に私たちは『織りなす音』のメンバーよ。合宿ではプレイだけじゃなくチームワークを高めることも重要なの。そんな浮ついた気持ちじゃ困るわ」


 確かに衣織の言うことも一理あるけど、女子として見るなってのは無理だろ……夏だから露出も多いし、皆んな魅力的なんだから……もしかして僕の感覚っておかしい?


 今度ユッキーに相談してみようと思った。


 ——僕たちは荷物を置いて早速スタジオに向かった。


 元々この別荘は、学さんが作曲に集中できるようにと建てたものらしい。


 しかし年々改修を繰り返し、今では完全防音仕様で、プロジェクトチームとレコーディング合宿に利用することもあるそうだ。


 高校生の僕たちがこんな凄い別荘を使わせてもらえるのは、学さんが僕たちを応援する気持ちからだ。

 

『全国高校生軽音フェス』絶対に負けられない。


 因みに、アンと父さんはこの別荘にあるレコーディングブースでギター入れをやる予定とのことだ。




 ——スタジオ内は全面鏡張り。


 テニスコートがすっぽり入るんじゃないかってぐらい広かった。こんな環境で練習できるとか……嬉しい通り越して恐縮してしまう。


 ドラムセット、ギターアンプ、ベースアンプは複数置いてあった。


 そして部屋の真ん中にはグランドピアノが……。


 この設備には僕も面食らった。


 衣織が「曲調によって機材を使い分けるためよ」ってさらりと言っていたが、まあそう言うことなんだろう。


 遠慮していても始まらないので早速僕たちは準備に取り掛かった。


 練習スタイルは学校の時と変えず。持ち曲を数曲交代で演奏し、意見交換を行う。


 学校の時と違い機材が複数あることで、ほとんどインターバルを必要としないのが嬉しい。


 環境は完璧と言ってもいい。


 後は、やるだけだ。


 僕たちの熱い夏がはじまる。


 

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