第119話 波乱の夏合宿

 衣織のおかげで追試は難なくクリアできた。


 さあ、夏休みだ! 合宿だ!




 ——避暑地で音楽三昧、中々に夢のようなシチュエーションだ。


 皆んながいるからイチャラブとか次のステップは期待できないけど、その方が音楽には集中できる。


『全国高校生軽音フェス』優勝必達だ。


 因みに今回の合宿。顧問の引率はない。でも現地に学さんがいると聞いている。


『『す……すげえ……』』


 窪田家の別荘に到着して驚きを隠せない部の皆んな。まあ、僕も普通に驚いている。


 だって、窪田家の別荘はどこからどう見ても豪邸なのだから。


 インターホンを鳴らすと学さんが出迎えてくれた。


「いらっしゃい」


『『……』』


 皆んな言葉を失っていた。


 みんなの反応を見るに、衣織は自分の父親が窪田学だと話していなかったようだ。


 そりゃ目の前に窪田学が現れたらそうなるだろう。学さんは音楽を志している者なら誰もが知っている超有名人だ。


 更にみんなの驚きは続く。


『『……』』


「アン……父さん……」


 リビングにギターを抱えたアンと音無仁がいたからだ。


 アンはいわずと知れた世界的に有名なギタリストだ。以前僕たちと接点があったことは皆んな知っている……でも、そんな超有名人が目の前にいたら驚くのも当然だろう。


 そして父さんはギタリストに絶大な人気を誇っている。古谷先輩と車谷先輩がよく父さんのプレイがヤバいって話しているのを耳にしていた。


 因みに僕も自分の父親が音無仁とは話していなかった。


「鳴! 久しぶり!」


 そしてアンが僕に抱きついてきて、更に皆んなを困惑させる。


「ちょっとアン、離れなさいよ」


「なんでよ! ただの挨拶じゃない!」


「挨拶で抱きつかないわよ!」


 いつものように衣織とアンの言い争いがはじめる……衣織もアンに対しては子どものようだ。


「ちょっと何してるのよ2人とも」


 僕がオロオロしていると凛が仲裁に入ってくれた。


「え! ルナ!」


「違うわよ!」


「アン、こいつは凛……僕の双子の妹なんだ」


「り……凛……リン・オトナシ」


 凛の仲裁で衣織とアンの言い争いはおさまった。


「とりあえず衣織、先に皆んなを部屋に案内してあげたら」


 3バンドなので3部屋あてがわれていた。部屋数と広さは十分にあるのだが流石に12組も布団はないと聞いていたので僕を含む男子部員は寝袋を持参した。


 でも……ちょっと待って……古谷さんのとこは男子ばかりだし、結衣さんのところは女子ばかりだ。


 うちは僕以外……全員女子なんだけど……。


 部屋割りに妙な期待と不安を抱く僕だった。




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