第117話 久しぶりに家くる?

 愛夏にフラれた僕は、灰色の高校生活を送るものだとばかり思っていた。


 実際、毎日憂鬱だったし、学園にも馴染めていなかった。


 ……でも、衣織の歌と出会ってから僕の高校生活は一変した。


 やめていたギターも再開した。


 こんなにも忙しい高校生活を送るとは思ってもみなかった。


 本当に充実した高校生活で毎日忙しい。


 そう、毎日忙しすぎた。


 ……その結果。


「えっ追試?」


「う……うん」


 中間テストはなんとか乗り切れたのだが期末テストで、僕は撃沈した。


「大丈夫? 補習とかやめてよ! 合宿もあるんだから」


 そう……この夏休み我が軽音部は、避暑地にある窪田家のスタジオ付き別荘を借り、合宿を行う事となっている。


「は……はい」


 というのも我が軽音部は『全国高校生軽音フェス』に参加することになったからだ。各校オリジナル部門1バンド、カバー部門1バンドがエントリーできる。


 僕たち『織りなす音』はオリジナル部門でエントリーが決まっているが、カバー部門の1枠は結衣さんバンドと古谷先輩バンドで競うことになる。


 予選は動画審査になるため、この合宿で予選用の動画も撮影する。


 参加するからにはもちろん優勝を目指す。


 特に僕たちはメジャーを目指そうっていうのだから、優勝が最低条件のような気もする。


 とにかく結成してまだ日も浅い僕たちが優勝する為には、合宿の締めるウェイトは大きい。


 補習になってしまったらメンバーに顔向けできない……なんとしても追試を乗り切らないとダメだ。


「ねえ、久しぶりに家くる?」


「え……」


 最近衣織の家はご無沙汰だ。時枝のバンドミーティングに毎日のように付き合わされているからだ。


 時枝はとにかく熱い。穂奈美ですら若干引き気味の時がある。


「変なこと考えないでね!」


 考えちゃダメなのか……。


「か……考えてないよ!」


「勉強……見てあげようと思って」


 ですよね。


 今日は時枝と穂奈美は凛の特別レッスンだ。つまりチャンスだ。


 最近、衣織ともあんまり進展していない。


 勉強メインでもご褒美のワンチャン……期待してもいいよね。


「お願いしてもいい?」


「いいよ」


 僕も衣織と特別レッスンだ。


 でも真面目にやらないと色々失ってしまう……気持ちの切り替えが大変そうだ。


 

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