第108話 新入部員

 部室に行くとベースを持った女子とスティックを持った女子が居た。はじめてみる顔だが部室には彼女たちしか居なかった。


「おはようございます」


「うっす」「ハロー」


 軽く挨拶を交わすとロックな感じで返された。


「もしかして、入部希望者ですか?」


「うん、そうだけど……あんたもここの部員?」


 ベースの子が答えてくれた。そして質問に質問で返された。


「ええ、まあ」


「なに? ギターやってんの?」


「はい」


「ふーん、ルナって子より上手いの?」


 またルナかよ……。


「さあ、どうでしょうか……」


「アンタ煮え切らないね」


 ……なんだろう、この上からな感じ。


時枝ときえ、失礼よ」


 スティックをもった彼女が諭してくれた。


「あーそだね、世間では失礼なんだよね」


 世間じゃなくても失礼ですよ。


「はじめまして、私は穂奈美ほなみ、ドラマーです。彼女は時枝ときえ、ベーシストです。 2人とも1年です」


 穂奈美さんが普通な感じで助かった。ところで衣織も結衣さんもそうだったけど、なんでファーストネーム紹介なんだろう。


「はじめまして、僕も1年の音無鳴です」


 そんなやりとりをしていると衣織と結衣さんが来た。


「「おはよう」」


「ん? あれ? もしかして入部希望者!」


「そうみたいです」


「お——っ!」


 結衣さんがバンザイで喜んでいると、2人が畏まって衣織に挨拶をはじめた。


「「は……はじめまして」」


「窪田先輩とルナさんのステージみて感動しました! あーしたち、窪田先輩たちと一緒にプレイしたいです」


 時枝さんが熱い想いを衣織に伝える。なるほど……そういうわけか。……でもルナにはならないからね。


「え、何? 2人は衣織とルナコンビと組みたいの?」


 結衣さんが悪い顔で2人に質問を投げかける。


「「はい」」

 

 2人の答えを受けて結衣さんは僕に期待の眼差しを向けたが、全力で首を横に振った。


「ごめんね、もうルナやめちゃったんだ」


 あっさり結衣さんが折れてくれた。まあ、散々楽しんだからもういいですよね。


「やっぱりアン・メイヤーに取られちゃったのですか?」


 そういえば学園のみんなの前で盛り上がったけど、みんなはバトルの結果をしらない。つか時枝さん態度変わりすぎです。


「いいえ違うわ、アンとの勝負はドローよ」


「「すごい!」」


「アン・メイヤーとドローとか神ですか!」


 いや本当にすごかったよ。神がかってたよ衣織の歌は。


「じゃ今、窪田先輩はソロなんですか?」


「ううん、彼とユニットを結成してるわ」


「「えっ!」」


 2人とも全力で疑いの眼差しを僕に向ける。


「あの煮え切らない彼ですか?」


「そうよ、あの煮え切らない彼よ」


 おいおい衣織さんまで……。


「アン・メイヤーにもひけをとらない、窪田先輩に見合う実力者なんですか?」


「なんなら彼とセッションしてみる?」


「いいですね、やりましょう」


 なんだろう……僕、間違った対応しただろうか……初対面なのにいきなり敵意むけられてるよね?


 僕の意思を無視して僕と彼女たちとのセッションが決まった。


 最近、僕の意思はスルーされるのが定番だ。

 


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