第107話 観覧車で……

 衣織の苦悶は続いた。


 なぜなら、あの2人がチョイスする乗り物が全て絶叫系だったからだ。


 僕の前では完全にグロッキーながらも、2人の前では完璧な笑顔を見せる衣織を見て、プロ根性が凄いと思った。


 衣織は、なんてたって学園のアイドルだから。


「次あれ行こ!」「いいですね!」


 止まる様子がない2人。でも衣織の限界は近い。


「ちょっと僕たち休憩するよ、そこで座って見てるからお二人で!」


「そ、そうか……行きましょうか部長」


「いこいこ!」


 2人は元気いっぱいだ。


「ごめんね衣織、なんか無理させちゃって」


「なんのこれしき……まだまだ行けるわよ」


 なんのこれしきって……言葉も変になってるし、強がりもここまで来ると見事としかいいようがない。


「2人……いい感じですね」


「本当ね……うまくいくといいわね」


 2人が戻ってきて次はお化け屋敷に行くことになった。グロッキーな衣織をみて気遣ってくれたのかもしれない。


 しかし、そこでも衣織は期待を裏切らなかった「きゃぁぁぁぁ———!」お化け屋敷中に衣織のシャウトが響き渡った。さすが歌姫!


 夕方には衣織の顔から生気が消えていた。


「最後あれ乗ろうよ」


 石井部長が指差したのは観覧車だった。観覧車……これはユッキー告白チャンスだ。でもこの流れだと4人で乗ることになる。ここが僕の踏ん張りどころだ。


「いいですね! でも僕、衣織と2人で乗ってイチャラブしたいです!」


 言ってやったぜ……さあ、どう出る? 石井部長。


「じゃぁ、私も幸村とイチャラブで乗るね!」


 え……まじか……もしかして石井部長、普通にユッキーに気があるんじゃ?


 そして僕たちはそれぞれ観覧車に乗った。


「衣織、本当にありがとうね」


「え」


「衣織は『大丈夫?』って聞いても大丈夫しか言わないから……素直に感謝の気持ちを伝えるよ」


「私こそありがとう鳴、今日1日私に気使わせちゃったね……ユッキーくんの応援しないとダメなのに」


「でも、あの2人は大丈夫そうだよ」


「私もそう思う」


 今日1日2人の様子を見ていて本当にそう思った。なんか波長もあってるし、観覧車に乗る前の一言といい、石井部長もまんざらじゃないだろう。



 つか、この雰囲気……密室だし、景色もいい。ちょっと衣織がグロッキーだけどいいよね?


「ねえ衣織、キスしてもいい?」


 衣織は目を丸くして赤面した。


「もう! 本当はダメだけど……」


 片目をつむって衣織が続ける。可愛い。


「今日頑張ったご褒美よ」


 衣織にご褒美をいただきました。



 ——観覧車タイムが終わり、女性陣が化粧直しに行っている間、ユッキーと話した。


「お前ら、観覧車でキスしてただろ?」


「え……見てたの!」


「見てねーよ、きっとしてるだろうなと思って」


 焦っちゃったじゃないか……。


「俺もしたぞ」


「え」


「俺たち付き合うことにした」


「お————っ! おめでとう!」


「ありがとうな親友」


 僕たちが手伝う手伝わないに関係なく2人は付き合っていた気もするけど、お役に立てたようで幸いだ。


 化粧直しから戻ってきた衣織が赤面していた。きっと僕と同じように石井部長に言われたのだろう。


 本当は帰り道すがらユッキーに色々聞きたかったんだけど、僕は衣織が心配で家まで送り届けた。


 ユッキー末長くお幸せに。


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