第104話 織りなす音

 僕たちは学さんにメジャーを目指すべきだと勧められた。でもメジャーを目指すって具体的に何をすればいいんだろう。オーディション? ライブハウス? SNS動画? どちらにしろ学生の僕たちにできることは限られている。


「もし2人がメジャーを目指すのなら、まず最初に必ずやっておかないといけない事があるよ」


 まず最初に必ずやっておかないといけない事……まさか学さんからいきなりアドバイスが頂けるのか?


「僕はね、2人と初めてセッションした頃から、ずっとそれが気になっていたんだ」


 そんな頃から……もしかしたら、僕たちに何か致命的な欠点でもあるのだろうか。


「パパ……それは」


 衣織も聞いていないのか。


「それはね……」


 それは……。


「君たちの……」


 僕たちの……。




「グループ名を決めることだよ!」




「「え!?」」


「だって、2人のユニットにはグループ名がないよね?」


「た……確かにないけど、そんな事!?」


「そんな事ではないよ衣織」


 今まで黙っていたアンが口を挟んできた。


「無名の新人が本当に無名なんてシャレにならないからね!」


 無名が無名……それは駄洒落だよね。


「インパクトがあって覚えやすい名前をつけることが大事だわ」


 まさか、とんでも理論で衣織ともめていたアンから、そんなド正論なアドバイスが頂けるとは……。


「アンの言う通りだ、メジャーになると言うことは、名前を売ると言うことだからな」


 父さんまで……。


 窪田学、音無仁、アン・メイヤー……グループ名より実名で売れてる御三方に言われても、ちょっと説得力に欠ける気もするけど、実は僕も少し気になっていた事案ではある。


「そ……そうね、名前大事よね……名前決めましょうか」


「『窪田衣織アンド音無鳴』でどうだい?」


 なんだ……そのひねりのない名前は……学さんの楽曲センスは素晴らしいけど、ネーミングセンスは……。


「却下」


 衣織にすげなくあしらわれた。天は二物を与えなかったようだ。


「じゃぁ『世界一美しい旋律を奏でるギタリストと世界一熱い歌姫』は?」


 なげーよ……それに色々かぶってる。


「いやよ! 私そんなに熱くないし!」


「『音無衣織』でどうだ?」


 な、な、な、な、な、なんて事言うの!? 父さん!?


 父さんの提案に衣織は赤面してしまった。


「仁さんその名前はいずれ名乗らせていただきますので……」


「ん、ちょっと待って」


 アンが反応した。


「2人はもしかして、恋人同士なの?」


「「うん」」


「み、み、み、認めない!」


「何でよ! あなたと出会う前から付き合ってました!」


「そんな話、私聞いてない!」


「そりゃ出会ってないもん!」


 またまた、衣織とアンが口論をおっぱじめた。なかなかの勢いだ。もしかして2人って波長が合う? なぜか僕はそんな風に感じてしまった。


 結局、僕たちのグループ名は『織りなす音』に決まった。


 僕が衣織と組むと決まった時からずっと温めていた名前だ。


 

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