第103話 勝負の行方

 頑なに勝負を望んでいたアンが、僕と衣織の演奏に介入してきた。アンの表情を見るにアンも衣織の歌に魅せられたのだろうということは想像できる。


 でもこの場合、勝敗はどうなるのだろうか。


 アン自身が衣織の歌に魅せられたのだから、衣織の勝ちと考えてもよさそうなものだが……。


 まあ、ジャッジは学さんに委ねてるのだから、僕は考えないでおこう。


「アン……どういうつもりなの? 勝負じゃなかったの?」


 演奏が終わり衣織が真偽を問いただす。まあ普通にそうなるよね。


「し、し、し、仕方ないじゃない! 体が勝手に動いちゃったんだもん」


 アンは照れ臭そうに視線を下げる。自分でもやらかしたことが分かっているようだ。


「勝手に体が動いたって……それじゃ勝負にならないじゃない」


「ドローでいいわ!」


 とんでも理論を展開するアン。


「はあ————っ?」


 衣織とアンがなかなかの勢いで口論をおっぱじめたが、僕はどうすることもできず、ただオロオロとしていた。


「まあ、いんじゃないドローで? 僕たちもいいもの聴かせてもらったよ」


 満面の笑みでジャッジを下す学さん。父さんも学さんの隣で頷いている。ジャッジを委ねた学さんがドローと言うのならドローだろう。


 自分で言うのはおこがましいが、勝負の趣旨は演奏の優劣ではなく『どちらが僕のギターに相応しいか』だ。


 衣織の歌は本当に素晴らしかった。トッププロのアンにもひけをとらない力を発揮したと思う。


 でも……単純に僕のギターの良さだけを引き出すのならアンの方が上かもしれない。


 事実、僕はアンの介入でもう一段上に行けた気がしたのだから。


 まあ、今更だがこの勝負に僕の意思は一切反映されていない……僕もドローでお願いしたいです。



「ところで、衣織に鳴くん。君たちはメジャーになる気はないのかい?」


「「え!?」」


 メジャー……考えたこともなかった。僕は衣織と顔を見合わせた。衣織も寝耳に水って感じだった。


「やっぱり考えてなかったんだね」


「メジャーどころか、まだまともにライブをやったこともないので……」


 いつも女装だったから。


「そっか……いや僕はね、衣織のパパとして、彼女の将来に影響が出そうなことには、なるべく口出ししたくなかったんだけど」


「パパ……」


 学さんはそう前置きした上で僕たちに告げた。


「それでも言わせてもらう。衣織と鳴くんはメジャーを目指すべきだ」


 メジャー……音楽を突き詰めて行けば、いずれ目指すべき場所だろうけど。


 アンとの勝負から一転、とんでもない方向へ話が進んだ。


 でも僕の答えは最初から決まっている。


 衣織と一緒ならメジャーだってどこだって……。


 衣織はどう思っているのだろうか?



 ————————


 【あとがき】


 果たして鳴と衣織はメジャーを目指すのか!?


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