第100話 衣織対アン

 僕をメンバーに誘いに来たアン、それを拒否する衣織。


 僕の意思とは無関係に2人が火花を散らす。


 ……なるべく穏便な解決を望みます。


「あなた、それ本気で言ってるの?」


「本気よ」


「私と組めばルナはたちまちスターダムにのし上がるわ……私の言っている意味分かるかしら?」


 アンのやつ何てことを言うんだ……いきなりマウントを取られた衣織が困り顔で押し黙ってしまった。アンはさらに続ける。


「あなたはルナと同じ舞台に立つ資格があるのかしら?」


「同じ舞台に立つ資格……?」


「言い方を変えるわ……ルナの実力は本物よ、あなたはルナに見合う実力があるのかしら?」


「……それは」


 衣織の実力は申し分ない。衣織が躊躇するのはアンが先に示した地位の確約だ。確かにアンとギターデュオを組めば僕はスターダムにのし上がることが出来るかもしれない。ても……。


「アン、それは違うと思う」


 思わず口を挟んでしまった。


「アンの言いたいことは分かるよ。音楽の道を志す者としてその提案は確かに魅力的だけど、それは違うと思うの……」


「ルナ……」


「それに衣織の実力も本物よ」


 みんなの注目を集める僕。何とも言えない重い空気になってしまった。そして自分の発したオネエ言葉に鳥肌が立つ。


「分かったわ……」


 沈黙を破ったのはアンだ。


「でも、私にはルナが必要なの……だから勝負しましょう」


 僕のギターが認められているのだろうけど、そういう風に聞こえない。せめてルナの力とかルナのギターって言ってほしい。


「勝負って?」


「今から私がリスペクトするアーティストの前でプレイして、私と衣織のどちらがルナに相応しいかジャッジしてもらいましょう」


「え……今から?」


「そう今から、2人ともついて来て」


 めちゃくちゃ強引な気がしますが……。


「分かったわ」


 衣織が受けちゃいました。


「じゃあ行きましょう」


 ダメだ、もしこのまま学園に戻れなかったら制服の予備がない。二日連続で制服を学校に置いていくことなんてできない。


「ちょっと待って、荷物とギターとってくる」


 ——荷物と制服を取りに行ってから改めてアンと合流し、アンが待たせていたハイヤーで移動した。


 そして到着したのは……。


 窪田家だった。


 もしかして、アンがリスペクトするアーティストって……学さん?


 つか、僕……女装で、学さんに会うの?!


 ……彼女の父親なんですけど。


 衣織が僕を見て苦笑していた。


 空耳と思うけど「どんまい」と聞こえた気がした。


 


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