第95話 アンのギタークリニック

『えっ、アン・メイヤーに会ったの!?』


 皆んな目を丸くして驚いていた。


 そして今しがた起こった出来事とイベントのチケットを貰ったことを話した。


 アンと因縁があった事を知る凛以外はイベント観覧に乗り気だ。凛は憤慨して僕を睨みつけたが、これは冗談抜きにして凛のためにもなる。


「凛も行こう、勉強になるし」


 前向きに誘う僕を見て、凛も思うところがあったようだ。


 食事の後、例の楽器屋に行きイベントの開始を待った。しかし何かと縁のある楽器屋だ。


 ——ギタークリニックとはオーディエンスのリクエストに応えて即興演奏を行ったり、本人によるギターテクニックの解説、デモ演奏を行うのが一般的で、端的に言えばギタリストが主役のミニライブみたいなものだ。


 ギタークリニックには一般客だけではなく、ギタリストも多く集まる。普通のライブとはまた趣が違う。


『『ワァ——————ッ!』』


 歓声と共にアンが登場した。


 そしてすぐにギターを手に取り、彼女の演奏がはじまった。


 僕の中でアンはフラメンコ色の強いジャズギタリストってイメージだったが、全然違った。


 ベーズにジャズがありながらも、ポップスとロックを融合させたソロギタースタイル。


 キャッチーなメロディに絡む複雑なコードヴォイシングが演奏に独特の深みを醸し出す。


 それは彼女のルーツであるマニューシュジャズやフラメンコの影響も大きいのだろう。


 マニューシュジャズ界の天才が独自の進化を遂げた。


 伴奏とメロディーと速弾きを1本のギターで同時に表現してしまう、摩訶不思議な彼女の世界に観客もクリニックに訪れたギタリスト達も魅了されていた。


 素晴らしいメロディと圧巻のテクニックだ。 


『『ワァ——————ッ!』』


 演奏が終わり惜しみない拍手が送られた。


 ここからは観客からの質問とそれに応えるデモ演奏しばらく続いた。日本人ギタリストはアマチュアを含めレベルが高い印象だ。そんなギタリスト達も彼女の素晴らしいギターテクニックに心酔しきっているようだった。


 ん……? 今一瞬アンと目が合ったような気がした。


 そして最後はインプロビゼーション。


 いわゆる即興演奏だ。


 そしてアンが僕を指さし、手招きする。


 観客から注目を浴び、スタッフに連れられ僕はステージへ。


「ルナ、伴奏手伝ってもらえるかしら?」


「え、そんな私なんかが」


「隠してもダメよ、あなた相当な実力者でしょ? 左手を見たら分かるわ」


 左手を見れば……ってどういうことだ。


「まるでギタリストじゃないかのような綺麗な指……私と同じよ」


 そう言ってアンは僕に左手を見せた。


 そうか、力を入れてギターを弾くと指先がガチガチになる。このことが言いたいんだな。


 ギターは力を抜くことが推奨されるが実際には難しい。しかしよく見てたな……。


「どうなっても知らないですよ?」


「大丈夫よ……私に任せて」


 ひょんな事からアンとセッションすることになった。


 胸が躍る。


 でも、ルナになっていなかったらこのセッションは無かった。


 そう思うと少しやるせない気分になった。




 ————————


 【あとがき】


 ついにアン・メイヤーとセッション! 鳴としてできないのが残念!


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