第90話 鳴が作った新曲

 とりあえず結衣さんバンドは部室に戻った。そして母さんと一緒に凛を探していると、結衣さんからメッセージが入ってきた。凛は母さんとはぐれて部室に僕を訪ねたそうだ。


 つか、スマホ使えよって思ったけどスマホは家に忘れてきたらしい。いかにも凛っぽい理由だ。


 母さんと凛が合流して転入手続きしている間、中庭で僕が作った新曲を衣織に披露することにした。



 ——この曲は衣織との出会いから、今に到るまでをまとめた僕にとっては思い入れの強い曲になる。だから衣織の使える全ての音域を使うのではなく、衣織の歌が1番魅力的に聴こえる音域に絞った。


 曲の序盤はピックを使わず、フィンガービッキングでピアノのように伴奏とメロディーを入れる。もちろんメロディーは歌の邪魔にならないように味付けとしてだ。


 そして中盤からは情熱的なアルペジオで徐々に曲を盛り上げる。衣織に告白されて、僕が返事をするまでの不安な心境を表現している。


 コーラス部分、いわゆるサビはピックを使ったコードストロークとカッティングで最高潮に盛り上げる。もちろん衣織と付き合えた喜びを表現した。


 コーラス抜けは曲をループさせるために落ち着いたメロディーで整える。でもそれだけじゃない。この箇所では皆んなに対する感謝を僕なりに表現したつもりだ。


 一旦ここまでを衣織に聴いてもらって感想を求めた。


 もちろん、僕と衣織の出会いの曲だということは伏せて。



 すると衣織の頬に涙がひとすじ伝った。



「ごめん、ごめんね……泣くつもりじゃなかったのに、なんか感動しちゃった」


「衣織……」


「この曲……いいね、鳴の想いがいっぱい詰まってる……私たちの代表曲になるね」


 最大限の評価をいただけた。


「ねえ鳴、歌詞は私に書かせてね。このメロディーに乗せて伝えたい言葉が溢れ出てくるの」


 嬉しい。素直に嬉しい。


「うん、お願いします」


 本当ならここで抱きしめてキスでもすれば絵になるのだろうが、僕は女装中でここは学校だ。


 いろんな物議を醸し出しそうなのでそれは控えた。


 



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