第88話 美術室ライブ
選択した曲はバラード調の曲。
美術部室は、防音設備がない普通の教室だ。
なるべく大音量はさけたい。
バラード調の曲なら強弱をつければ大音量じゃなくても迫力のある演奏ができる。
だからこの曲。
僕が入部する時、衣織とはじめて合わせた曲だ。
イントロのアルペジオが終わり衣織の歌が入る。僕はAメロから薄くコーラスをかぶせる。ギターのみで衣織の歌を引き立たせるのが鳴バージョンなら、ルナバージョンは極力ギターの音数を減らし、衣織とのハーモニーでアンサンブルを作る。
女装までして同じことやっていても芸がない。音楽とはただ演奏が上手ければいいのではない。
視覚、聴覚、あらゆる感覚で心を揺さぶってこそだ。
ユッキーをはじめ美術部の面々も、次第に僕たちの演奏に引き込まれていく。ここまではまずまずだ。
だが、その中で1人平静を保ちシャッターチャンスを伺っている石井部長。
彼女をもっと引き込みたい。
あの冷静沈着な表情を崩したい。
僕は少し焦っていた。
だが、衣織がそんな僕の異変に瞬時に気付いて、歌で僕をいなす。
……僕は本来の目的を見失うところだった。
今日の目的は彼女を僕たちの演奏に引き込むのではなく、彼女の創作意欲を掻き立てることなのだ。
僕は衣織の成長速度に驚いた。
ユニットを組んだ当初は、僕が衣織をささえ引き立てるのに注力している感じだった。
だが、今は違う。
衣織がマスターとしてグイグイ引っ張ってくれている感がある。
僕の心から焦りが消え、いつも通りの演奏ができるようになった。
石井部長がカメラを構えシャッターを切りまくっているのが分かった。
無事役割を果たすことができて一安心だ。
——僕たちの演奏が終わるとユッキーと石井部長が仲睦まじく撮影データを覗き込んでいた。2人の密着度といい、なんかいい感じだ。
ユッキーはやっぱり石井部長のことが好きなのだろうか。
今度こっそり聞いてみようと思った。
「ルナちゃん、窪田さんありがとう、いい絵が描けそうよ」
メイクには時間がかかったが、演奏時間は、ほんの一瞬だ。
まだまだ、時間も早いので部室に戻り練習することにした。
——だが、部室までの帰り道で事件は起こった。
「凛」
「か……母さん」
なんと廊下でばったり母さんと出くわしたのだ。
なんで母さんが……つか、なんでこの格好の時に!
————————
【あとがき】
女装状態で母さんとばったり! 鳴の運命やいかに!
本作が気になる。応援してやってもいいぞって方は、
★で称えていただけたりフォローや応援コメントを残していただけると非常に嬉しいです。
よろしくお願いいたします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます