第87話 ルナ、三たび

 昼休みに今朝の出来事を衣織に話した。


「いいわよ」


 あっさり了承してくれた。


「え、本当に?」


「だって、ユッキーくんには私もお世話になってるし」


 高見先生の件か……。


「それに、じっとしてるんじゃなくて1曲やるだけでしょ?」


「うん、そう言ってたけど」


「なら全然問題ないわよ。 ユッキーくんの顔たててあげないと」


 親友の僕より決断の早い衣織を前にして、自分がすごく小っぽけな人間に感じた。


「でも、制服とかウィッグとかあるのかな?」


「あーあれもう部の備品にするって結衣が言ってたわよ」


 ……いつでも出動できるようにですね。




 教室に戻りユッキーに、衣織からオッケーをもらった旨を伝えた。ユッキーにしては珍しく「っしゃ!」と声をあげて喜んでいた。




 ——放課後、ルナへと魔改造された僕は、衣織に加え、何故か結衣さんバンドの面々を引き連れて美術室に向かっていた。


「はじめましてルナさん、私が美術部部長の石井だ」


 ユッキーが何も言わなかったので知らなかったが、部長の石井さんは綺麗系女子だった。


 モテ系ロングのデジタルパーマがよく似合うパッチリ二重の切れ長の目に、すっと通った鼻筋にあひる口。衣織や結衣さんとはまた違う超絶美少女だ。


「ど、どうもルナです」


 反射的に声色を変えてしまった。なんか板についてきてる感がある。


「おー! 可愛いねルナちゃん! いいね! いいね!」


 もの凄い勢いで石井さんにハグされた。石井さんはフレグランスを使っているのか、これぞ女子って感じのもの凄くいい香りがした。


 衣織からもの凄い形相で睨まれた。これは不可抗力です。僕のせいじゃありません。


 そして視線がもう一つ。


 ユッキー……? 


 ユッキーからも、もの凄い視線を感じた。うん? 


 ……もしかしてユッキー。


「じゃぁ、時間も惜しいし、早速はじめてもらってもいいかな」


 さっきまでと打って変わって真剣な表情の石井さん。彼女は美人なだけじゃなく、なかなか食えない感じの人だ。


 石井さんの真剣な表情を見て、これはある種の異種格闘戦のように感じた。


 まるで『被写体として相応しいかどうか見極めてやるぜ』的な挑発を受けたかのようだ。


 衣織が僕を見て頷いている。衣織も同じように感じているようだった。


 絶対に負けない。


 僕はイントロのアルペジオを開始した。


 

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