第86話 僕とユッキー

「ちっす、鳴」


「おはよう、ユッキー」


 ユッキーとこの挨拶をかわして何年になるんだろう。


 ユッキーは僕の幼馴染にして唯一の親友だ。喋り方はチャラめだけど実は硬派だ。まだ誰とも付き合ったことがないらしい。


 幼馴染なんて『いつから』と言うよりは『いつの間にか』なっているもんだ。でもユッキーと親友になったきっかけはよく覚えている。


 今の僕を知っている人からすると意外かも知れないが、ユッキーと親友になったきっかけは『柔道』だ。


 僕とユッキーは当時母さんの勤務先だった警察署で柔道を習っていて、そこで親睦を深めあったのだ。


 何度対戦したかは覚えていないけど、ユッキーには1度も勝てたことがない。


 僕もユッキーも柔道はやめてしまったが、今となってはいい思い出だ。




「鳴、折り入って相談があるんだ」


 ユッキーが僕に相談なんて珍しい。でもユッキーには色々お世話になっている。これは恩返しのチャンスだ。


「僕に出来ることならなんでも」


「そう言ってくれると信じてたぜ!」


 そう思ってくれているのは嬉しい。


「で、相談って?」


「実はさ、モデルになって欲しいんだ」


「も……も……モデル?! モデルってなに?」


 ユッキがー僕に小声で耳打ちした。


「ルナだよ。あれ鳴なんだろ?」


 バ……バレてた。


「な……なんで!?」


「俺も最初は分かんなかったんだけど、凛を見てわかったよ。瓜二つだったからな」


「あはは……そういうことか……」


「俺が美術部に入ったのは知ってるだろ?」


「うん」


「実は軽音部のお前と一緒のクラスだって分かった部長が、ゴリゴリに頼んできて断れなくてさ……」


「そうなんだ……」


 ユッキーの頼みだ……やぶさかではないが、自分からメイクとかお願いするのか……。


「で、窪田先輩にもお願いできない?」


「え……衣織も……」


「別にずっと止まってなくてもいいんだ、2人で一曲やってもらって、描きたいアングルの写真を一枚撮らせてもらえれば」


 衣織も一緒となると僕1人では決められないが、滅多にない親友の頼みだし……。


「分かった、昼休みに衣織に相談してみるよ」


「ありがとう、恩にきるぜ」


 いやいや僕の方が沢山世話になってますので……。


 ルナになるのは憂鬱だけど、親友の頼みなら仕方ない。


 でも、密かに衣織が断ってくれないかと期待していた僕は、やっぱクズ系かもしれない。





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