第85話 料理対決
3人の女の子が病気の僕のために料理を作ってくれている。
本来なら夢のようなシチュエーションだ。
……でもこれは違う。
3人のうちの2人は僕の彼女と元カノなのだから。
柔らかいはずのリビングのクッションが針のむしろのようだ。
「ねーねー、1人一品づつ作ってさあ、誰が1番美味しいか勝負しない?」
唐突に結衣さんから悪魔のような提案がなされた。
その判定って誰がするのでしょうか……。
「いいですよ」「私もいいわよ」
「ノリが良くていいね! ってことで判定宜しくね鳴」
「え」
「「え」じゃないよ? 鳴もちゃんと空気読んでね」
十分すぎるぐらい読んでます。だから嫌なんです。
「勝者には鳴が弾き語りをプレゼントで!」
「え」
「いいですよ」
食い気味の愛夏。よほど自信があるのだろう。まあ確かに愛夏の料理は美味しい。
「い……いいわよ!」
その反応……もしかして衣織は料理が苦手なのだろうか……。
「じゃぁ、私も参加するから公平な審査を宜しくね!」
つか、そんなに食材あったかな……と思ったけど皆んなそれぞれ用意してきていた。やっぱり凛の仕業だったと確信した。
でも、みんな一つ忘れている。
僕は体調不良です。
そんなに食欲はありません。
——そうこうしている間に皆んなの料理が完成したようだった。
時を同じくして凛も帰ってきた。
「どうぞ召し上がれ」
1番手の愛夏は肉じゃがだった。男の胃袋を掴む定番中の定番。しかもいつもよりも具材が小さくカットされている。体調不良の僕への配慮だろうか。
「いただきます」
一口食べて気付いた。愛夏のやつ腕を上げている。以前に作ってもらった時よりも薄味になっていたが、ちょっと重いのはしんどいと思っていた僕にはちょうどいい、優しい味付けだった。
さすが元カノであり幼馴染……よく僕のことを知っている。
「さあ、食べて!」
2番手の結衣さんはロールキャベツだった。特筆すべきは大きさだった。普通のロールキャベツより断然小さい一口サイズだった。
「いただきます」
驚愕の味だった。野菜類は細かくカットされたジューシーでフンワリした肉だねが口の中ですごいハーモニーを醸し出していた。食感も味も見た目も食べやすさも最高だった。つか、今まで食べた料理のなかでダントツでナンバーワンだ。
そして最後は衣織だ。
「ど……どうぞ」
やっぱり明らかに自信がなさそうだった。そんな衣織が作ってくれたのは『おじや』だった。
「いただきます」
衣織のおじやは……しょっぱかった。
でも、このしょっぱさは……僕の体を気遣ってのことだ。普段ならちょっと塩が効きすぎだと思うのだけれど、1日中寝ていて汗をたっぷりかいた僕にはちょうどいい塩加減だった。
これは愛夏と結衣さんには申し訳ないけど……。
衣織の勝ちだ。
「うめーな! 結衣さんのロールキャベツ! もうこれぶっち切りで結衣さん優勝だな!」
凛の無神経な一言で料理対決は僕以外、満場一致で結衣さんの勝利となった。
審査員であるはずの僕の意見だけが無視された格好だ。
でも、結果としては波風が立たなくてホッとした僕だった。
————————
【あとがき】
主役のはずが1人蚊帳の外! ある意味1番美味しいのは鳴です!
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