第84話 鉢合わせ

 また熱が上がりそうだ。


「いらっしゃい、衣織さん、結衣さん」


 結衣さん……あいつ結衣さんまで巻き込んだのか。機嫌よく玄関まで2人を迎えにいく凛。


「「おじゃまします」」


 本当ならめっちゃ嬉しい。


 だって付き合っている彼女がはじめて家に来てくれたのだから。


「おっす鳴」「どうも……」


「大丈夫鳴?」「うん、もうだいぶ良くなったよ」


 でもこれは……最悪だ。


「こんばんは愛夏さん」「こんばんは窪田先輩」


 だって、今日は彼女だけじゃなく……。


 元カノもいるのだから。


 さっそく目があってバチバチしてるし……マジどうしよう。やっぱ具合悪いですって、寝たふりでもしようかな。


「はじめまして、あなたがの愛夏さんね。私は川瀬結衣、結衣でいいよ」


「はじめまして川瀬先輩、ウワサになってるだなんて光栄です」


 やだ、本当にやだ……何この空気……なんでお前は笑ってられるんだよ……凛!


「今から、夕飯の支度しますので、お2人はゆっくりしていてください」


 愛夏からの先制攻撃がはじまった。


「夕飯の支度……鳴が頼んだの?」


 すごい形相で衣織に問いただされた。僕はブルンブルンと効果音がなりそうな勢いで首を横に振った。そして衣織が反撃に出る。


「愛夏さんこそ、ゆっくりしていて私がやるわ」


「いいですよ先輩、私の方が勝手を知ってますので」


「私、彼女だし」


 それぞれの武器で相手にダメージを与える。


 緒戦ちょせんは衣織の方がダメージを受けているようだったが、今の一言『私、彼女だし』で戦局をイーブンに戻した。


 2人に気を取られていて気付いていなかったが、いつの間にか凛と結衣さんが一緒になって笑いをこらえている。もしかして2人はグルだったのか。


 進展のない2人に結衣さんが爆弾を投下した。


「じゃあ4人で一緒に作ろっか」


「いいね!」


 な……なんだって……それは危険だ……。


 衣織さんと結衣さんの腕前は知らないが、凛は今朝もお米を洗剤で洗った強者だ。


 凛も『いいね!』じゃねーよ……少しは自重しろ。


 どうする……どうする僕……。


 母さんが帰ってきたときに5人の変死体なんてあったらシャレになんないぞ……いくら母さんが警察官僚でも迷宮入りしてしまうこと間違いなしだ。


 かくなる上はしかたない……。


「凛ゴメン、飲み物切らしてんだ。ちょっと買ってきてよ」


「えっ凛、部屋着だし、用意するの時間かかるし」


「夕飯の支度が終わるまでに間に合えば問題ないだろ」


「ちっ……しゃーねーな」


 凛の支度に時間がかかることを見越して、凛を切り離すことに成功した。


 あとはまあ……生きてさえいれば何とかなるだろう。


 このままだと明日は胃痛で学校を休むことになりそうだ。



 ————————


 【あとがき】


 鳴にとっては胃が痛くなる展開。

 衣織と愛夏には面白くない展開。

 凛と結衣にとっては面白い展開になってきました!


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