第81話 新たな葛藤

 実は最近またひとつ悩みが増えた。


 例のキスの件からだ。


 あの体勢でキスをしてはじめて気づいた。


 次のステップに進むには当然、僕がリードしなければならない。


 僕の考えすぎかもしれないが、衣織があの体勢にしたのはその意思の表れだと思う。


 まあ、平たく言えば僕はどうやって先に進めばいいのかわからないのだ。


 これは由々しき問題だ。


 もしもあの時、佳織さんも出かけていてチャンスがあったとしたら、僕は大恥をかいていたかもしれない。


 ある意味助かったのだ。


 こんなことを気軽に相談できる相手はユッキーしかいない。でもユッキーに相談しても無意味だってことは知っている。


 となると、軽音部の諸先輩方だ。


 みんな、僕より年上だ。絶対僕よりも経験豊富なはずだ。僕はそう思い先輩方にメッセージを送信した。


『みなさん恋愛経験は豊富ですか?』


『彼女いますか?』だと、いない先輩にトゲがあるような気がしてそれは避けた。


 早速返信が来た。


 大本命の古谷先輩からだ。


 古谷先輩は少しワイルドな感じがする、顔立ちも整ったいかにもモテそうなイケメンだ。


 しかし返事は『テメー俺を舐めてんのか?』


 察するに余りある返信だった。僕は古谷先輩個人宛に謝罪のメッセージを送っておいた。


 次に返ってきたのは林先輩だった。林先輩はロン毛で知的で頼り甲斐のある方だ。きっと女子にもその魅力は伝わっているはずだ。


『まずは経験豊富の定義を教えて欲しい。それは両思いの経験なのか、それとも片思いの経験なのか、もしそれが片思いの定義なら経験豊富だ、俺に力になれることがあったらなんでも……以下略』


 長々と返ってきたが、戦力外だった。僕は林先輩個人宛に謝礼のメッセージを送っておいた。


 車谷先輩と田中先輩は既読スルーだった。


 もう八方塞がりだ。


 だが、1人頼りになる先輩を思い出した。


 結衣さんだ。


 結衣さんは経験豊富そうだし、ギターを教えた貸しもある。きっと親身に相談にのってくれるだろう。そして何よりも女性視点だ。


 僕は勢いに任せて結衣さんにメッセージを送った。


 送った後で後悔した。


 いくらなんでも女性に相談できる内容じゃない。幸い文面は諸先輩方と同じだったので、差し障りのないいいわけで回避しようと思っていた。


『おーついに衣織とそこまで進んだ? ウチが手取り足取り教えてあげようか?』


 全部見抜かれていた。それに手取り足取りじゃ親身すぎる! 少し興味はあるけど……。


 結局何も解決しなかった。





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