第76話 幼馴染

 僕には2人の幼馴染がいる。


 愛夏とユッキーだ。


 例の件からも2人だけは、僕から離れず励まし続けてくれた。


 それでも……。


 それでも、僕は喪失感を拭うことが出来ず、心の扉を固く閉ざしたままだった。



 そんな僕に親身になって、心の扉を強引にこじ開けたのが愛夏だった。


 最初はことある毎に誘いに来る愛夏のことを、僕は迷惑に思っていた。



 ——だがある日、愛夏はついにブチ切れた。


「ねえ鳴、いつまで、そうやっていじけてるつもり? それが格好良いとか思ってるわけ?」


 そんな風に言われたのは初めてだった。あの凛ですら腫れ物を扱うように僕に接していたのだから。


「もういい、鳴には金輪際もう関わらない。絶交だからね」


 失うことに慣れた僕は、また1人去っていくだけだ。そんな程度にしか思っていなかった。


「止めなさいよ! なんでほっとくわけ? 信じられない!」


 泣きそうになりながら怒っている愛夏の顔を見て、僕は過ちに気付いた。


 いま僕がやっていることは、僕の元を去って行った人達と同じだと。



「ごめん愛夏……行かないで」



 愛夏は泣きながら抱きついてきた。ギターに夢中にだった僕は恋愛になんて興味がなかった。


 でも、この瞬間から僕は愛夏を女の子として意識するようになった。


 愛夏はとてもいい匂いだった。


 愛夏と関わっていくうちに僕は徐々に元気をとりもどした。交友関係は相変わらず愛夏とユッキーだけだったが、それでいいと思っていた。


 この頃から凛は僕のことを侮蔑的な念を込めて『バカ兄貴』と呼ぶようになり、ほとんど口もきかなくなった。


 8月下旬に父さんと凛がアメリカへ発った。本来なら僕も一緒に行くはずだった。


 今ほどではないけど、母さんが家を空けがちでだったこともあり、愛夏が身の回りの世話をやいてくれた。


 幼馴染とはまた違う意味で僕たちは親密になっていった。




 ——まあ、あとの話はご存知の通りだ。


 愛夏と付き合い、こっ酷くフラれた。


 でも、今の僕があるのは愛夏のおかげなのだ。


 僕には衣織がいる。


 だから愛夏の気持ちに応えることはできないけれど、愛夏への感謝の気持ちは、これからも変わらない。






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