第70話 嫌いにならないでね

 その後、さらなるイチャラブを期待した僕だったが、衣織が少し発散したいとのことで、窪田家のプライベートスタジオで衣織と新曲を合わせている。


 流石に無断であのギターは借りられないので、衣織のエレガットギターを借りた。このエレガットギターは弦と弦の間隔が狭く、他のギターから持ち替えても違和感なく弾けるのが嬉しい。ちょっと説明が雑すぎるかもしれないがにエレガットギターとはアンプに通して音が鳴らせるクラシックギターだ。


 新曲はギターを叩いてリズムをとるスラム奏法を採用したアップテンポの曲だが、ナイロン弦特有の温かみのあるサウンドにも意外なほど合う。これは怪我の巧妙か、新曲はエレガットが正解かもしれない。


 一方、衣織はムシャクシャしているのが歌にもあらわれていた。こんなに荒々しい衣織の歌ははじめてだ。ある意味歌ってもらえば衣織の感情は手に取るようにわかるのかもしれない。


 でも、そこはさすが衣織。ワンコーラスが終わる頃には平静をとりもどし、いつもの歌に戻っていた。


 煌びやかで伸びのあるトーンなのに、優しさと憂いをまとう彼女の歌声が、優しく僕を包み癒してくれる。さっきのキスとは別意味でご褒美だ。


 衣織の歌は僕の精神安定剤だ。ずっと聴いていたい。ずっと感じていたい。


 気がつくと僕たちは新曲のみならず、持ち曲を全部合わせていた。




 ——「あースッキリした」


「お疲れ様」


 言葉通り衣織は表情も穏やかになっていた。


「ねえ、鳴」


「うん?」


 衣織が少しモジモジしている。


「前にも言ったけど、私、男の人と付き合うのってはじめてなの……だからその……」


 何か言い出しにくいことなのだろうか?


 はっ!


 はじめて……ってことはもしかしたら……。


 続きは僕にリードしろってことなのだろうか。


 僕は期待に胸を膨らませ、衣織の言葉を待った。



「色々、感情がコントロールできないの」


 全然違った。本当に僕は煩悩の塊です。


「だからね……ヤキモチとかいっぱい妬くかもしれないけど……」


「うん」


「嫌いにならないでね?」


 可愛い。超絶可愛い。僕の彼女可愛すぎる。嫌いになるはずなんかない。


「それはないよ! 絶対にない!」


「ありがとう、信じてる」


 最高の笑顔いただきました。


 今日は衣織にいっぱいご褒美をもらった僕だった。





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