第68話 宣戦布告

『私を許して?』そんなお願い、聞けるわけがないだろ。


 僕があの時、どれだけ苦しんだか……。


 愛夏の言葉を聞いて、僕は怒りの感情に支配されそうになった。


 でも……。


 衣織に告白したあの時の事を思い出して平静を保った。




 ……もしかしたら愛夏も辛かったのかもしれない。




 取り敢えずそう考えるようにした。


「許してほしいって、何だよ……いや、許すも何も、僕たちは終わった。それだけだろ?」


 感情を抑えているつもりでも、つい口調がきつくなってしまう。


「うん……そうなんだけど」


 あの時と違い辛そうな表情を見せる愛夏。


「とりあえず聞くよ、何かあるんだろ?」


「うん……」


 やっぱりあるのか……。


「他に好きな人がのは、本当……私、鳴をずっと裏切っていた」


 ずっと、裏切っていた……。


 正直ショックだった。


 僕は僕なりに、愛夏ときちんと向き合っていたつもりだった。


「そうか……それで……それで耐えきれなくなって僕と別れたのか」


「うん……」


 好きでもないのに、気持ちを裏切られたままで、ずっと付き合われているよりマシだったか。


「悪かったよ愛夏……気付いてあげれなくてゴメン。許すとか言えた義理じゃないけど、愛夏が気にしているならもう気にしないで」


 これが僕の精一杯だった。


「ありがとう鳴、でも違うの」


「何が違うんだよ……僕の他に好きな奴がいたんだろ? 

 僕はそんな愛夏の気持ちにずっと気付かず苦しめていた……

 そう言うことなんだろ?」


「だから、違うの」


「愛夏、ダメだぜ。このバカ兄貴に回りくどいこと言っても……お前もストレートにちゃんと話せ」


 なんだ……なんのことだよ。


「鳴……」


 愛夏のこの表情……。


「私が好きなのは」


 まさか本当に……。




「今の鳴」




 衣織の言った通りだった。


 そして涙が溢れてきた。


「私が好きなのは、輝いている鳴。私と付き合っていた頃の鳴じゃない」


 愛夏は心変わりなんかしていなかった。


 愛夏はずっと気付きを促していてくれた。


 でも、僕はそんな愛夏の優しさに甘えていただけだった。


 だから愛夏は別れる選択しかできなかった。


 悪いのは全部僕だった。


「ねえ、鳴、今悪いのは全部僕だって思ったでしょ?」


「え」


 図星だ。


「ユッキーにも言われてたよね? その自己解決やめろって」


 聞かれていたのか。


「悪いのは私だよ。私が鳴を見捨てたのは本当なんだもん……

 私では鳴を輝かせることができなかった、これが事実なの」


「愛夏……」


「私も悔しいよ? だから、許して欲しいって言うのは私のワガママなの」


 言ってることは分かるが……。


「鳴が窪田先輩を大切にしているのも知ってる」


「うん……」


「だからこれは窪田先輩に対する宣戦布告よ、伝えておいてね」


「え……」


 もちろん衣織には伝える。伝えないわけには行かない。


「でも、僕は愛夏の気持ちには応えられない」


「だから宣戦布告なのよ。いつか今の鳴を振り向かせてみせる」


「モテる男は辛いな? バカ兄貴」


 確かに辛い……まさかこんな展開になるとは思ってもみなかったのだから。


 悩みのタネがまた一つ増えた。


 


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