第67話 鳴とギター

 部活を終え帰宅すると、玄関に見慣れない靴があった。愛夏はもう来ているようだ。


「ただいま」


「「おかえり」」


 リビングにはだらしない部屋着のままの凛と、ばっちり私服に着替えた愛夏がいた。3人がこうやって揃うのは、何年ぶりだろう。懐かしい気分になった。


「おじゃましてます」


「どうも」


 元カノとも幼馴染とも思えない程のよそよそしい挨拶をかわし、僕は自室に向かった。いつ呼ばれるかと、そわそわしながら待っていたのだが、気兼ねなく2人で談笑しているようなので、ギターを手に取り自曲の練習に勤しんだ。


 僕は物心ついた頃から、愛夏と付き合っていた3年間、厳密には2年半を除き、ずっとギターを弾いてきた。


 でも今が1番楽しい。


 衣織の歌にあわせ、心のままに奏でるメロディー。この場に衣織がいなくとも彼女のことを感じることができるぐらいに高まっている。


「すごいなバカ兄貴」


 いつの間にか2人が僕の部屋に来ていた。全く気づかなかった。それぐらい集中していた。


「私、鳴のギターこんなに近くで聴いたのはじめてかも」


「愛夏……」


 そう、僕は愛夏と付き合っているときはギターを弾いていなかった。


「私がすすめても全然弾いてくれなかったもんね」


 確かに愛夏は僕にギターを促していてくれた。でもあの頃の僕はギターを手に取ることができなかった。


「あの頃は本当に無理だったんだよ」


 僕は心が折れていた。ある天才との出会いでがきっかけで自信を完全に失っていた。


「やっぱり、窪田先輩の影響で?」


「うん、SNSで衣織の動画を見つけて、それで久しぶりに弾きたくなったんだよ」


「衣織さんの歌はヤバいもんな、兄貴がギターを弾きたくなった気持ち、分かるよ」


「なんか悔しいな」


 どういうことだ……。


「私が、どれだけ頼んでも弾いてくれなかったのに、窪田先輩は歌だけで鳴の輝きを取り戻しちゃうんだね、すごいよ」


 僕の輝き?


「愛夏……」


 何が言いたいんだ。


「ねえ、鳴あの約束覚えてる?」


「あの約束って?」


「私のお願い聞いてって話」


「あ……ああ、覚えてるよ」




「私を許して?」



「え」



「それが私のお願い」




 許すってどういうことだ……あれを無かったことにしろってことなのか?



 僕はいろんな感情が入り混じり、すぐには何も答えられなかった。







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