第65話 ニヤニヤして気持ち悪いな

 ニヤニヤが止まらない。普通に道を歩いているだけなのにニヤニヤしてしまう。だって……だってついに!


 衣織とファーストキスしちゃいました! やったね鳴!


 言いたい、言いたい誰かに言いたい。でも言えない2人の秘密。でも言いたい。


 自分でもヤバいやつじゃね? ってぐらいニヤニヤしているのがわかる。


 この気持ちどうすればいいんだろう。溢れ出る喜びってどう表現したらいいんだろう。『うおー!』って叫びながら街を駆け抜けたらいいのだろうか。


 まあ、チキンハートの僕にそんなことができるはずもなく普通に帰宅した。


「ただいま」


「おかえり」


 ただいまとおかえり。随分久しぶりに交わした挨拶だ。


「あれ? バカ兄貴どうしたんだニヤニヤして……気持ち悪いな」


「気持ち悪いって失礼だな」


 ずいっと凛が近付いてきて僕をクンクンしただした。


「衣織さんの匂いだ……もしかしてヤッた?」


「やってねーよ! キスだけだよ!」


 あ……。


「へー」


 ジト目でにやけながら僕を見つめる凛。


「キスしたんだ衣織さんと……へー」


 明らかに、かからかいモードの悪い顔になってる。


「いや……その」


「寝ている妹のおっぱいを触るような変態なのにね」


「いや、あれは違うだろ! あれは凛が」


「あれ? 何が違うのかな? いいわけするの?」


 う……下心が全くなかったわけじゃないだけにそれを言われると辛い。


「衣織さんに話しちゃおかな?」


「衣織には話したよ……」


「え……マジで……彼女にそんなシスコンエピソード話したんだ」


「ああ」


「引くわー」


「やめてくれ、無駄に傷つくから」


「つか、その展開でどうやってキスになったの? そっちの方が気になるわ」


 普通に考えれば確かにそうだよね……。


「全部正直に話したんだよ……その、凛とそうなって悶々しちゃった事とかも」


「……本当にバカ兄貴だな……そんなことまで話すなんて……」


 凛はガチであきれ顔だ……本当にやめて傷つくから。


「でも、衣織さんいい人だな……大事にしろよ」


「うん、ありがとう」


「それはそうと、飯にしようぜ、腹減ったよ」


「分かったよ」


 部屋着に着替えて、さっそく夕食の準備に取り掛かった。


「あ、そうだ明日、愛夏が来るからよろしく」


「え?」


「愛夏、私の親友だからな」


 凛が帰ってきた時からなんとなくこんな日が来ることは分かっていた。


 明日は衣織の家に寄らせてもらおうと思った僕だった。




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