第64話 したいの?したい!いいよ?

 『したいの?』


 『したいの?』から想像できること。


 たくさんあるけども、この場面での『したいの?』は……きっと、あっち方面だよね……。


 まさかの展開……衣織に『したいの?』なんて言われると思っていなかったら、なんの答えも用意していない。


 そして衣織の言う『したいの?』は恐らくこの2択だ。


 ひとつは、そう……アレだ。僕たちは付き合っているのだから求め合うのは自然のことだ。しかも僕たちは結婚前提のお付き合いだ。何一つ後ろめたいことはない。


 強いていうならば、僕がまだ16歳で僕の両親は何も知らない。


 ……まあ些細なことだ。


 そしてもうひとつの『したいの?』は、キスだ。


 人通りの少ない今なら、ここでキスすることだって可能だ。


 さあ、なんて答える僕……。



 ん……。



 いや、違うぞ……違うぞ鳴。


 そもそも僕は大事なことを見落としている。『したいの?』の内容なんて何だっていいんだ。


 衣織に『したいの?』と問われて『したい』以外の答えなんて、あるはずもないのだから。


 もう、僕に迷いはない。


「したい……」


 僕は言葉少なめに答えた。あとは衣織の反応を見れば一目瞭然。


 だが、衣織は顔を赤らめ、うつむいているだけだった。


 もう、ここは待つしかない。


 持久戦だ。


 僕はこの沈黙と戦った。本当は言葉を発したかった。鼓動はおそらく180BPMは刻んでいるだろう。メタル系の音楽の速さだ。


 そしてついに、衣織が沈黙を破った。


「いいよ?」


 なっ……『いいよ?』だって……。


 つか、何がいいんだよチクショウ! 教えてくれよ! これ……勘違いしたら僕は性犯罪者になってしまうやつじゃないか……。


 考えろ! 考えろ! いや、ここは考えるんじゃない! 感じろ! なのか……。


 この『いいよ?』を放置するわけにはいかない。そんなことをすれば、僕は男としてどうなの? と疑われてしまうばかりか今後のお付き合いにも影響する。


 どうする……どうする……どうする僕!


 そんな僕を衣織が押し倒し、衣織の唇と僕の唇が重なる。


 濃厚なやつだった。


 突然の出来事に僕はなす術なく身を預け、目を丸くして衣織を見つめるだけだった。


「今日はこれで我慢してね」


「う……うん」


 思いがけないファーストキス。



 あんなにも悶々としていたのに……不思議と心が落ち着いた。



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