第60話 衣織のおかげ

 いつもの帰り道。


 いつもなら衣織と2人きりのマッタリタイムなのだが……。


 今日は凛がいる。しかも衣織と謎に意気投合し、僕は蚊帳の外だ。話の節々に僕の名前が出るのが気になるが、2人の共通の話題は僕なのだから仕方ない。


「兄貴ちょっとこっち」


 2人と少し距離を取っていた僕を、凛が呼び寄せる。


「なあ、2人はどこまで進んでるんだ?」


「「え!」」


「ん、だって衣織さんと兄貴付き合ってんだろ?」


 衣織と顔を見合わせた。


「うん、まあ……」


「まだ何にもしてないんだ?」


 何もしてなくはないが、何もしていない……。


「そ……そんなの凛に言う必要ないだろ」


「図星だね」


 妹とコイバナ……地味に気恥ずかしい。


「衣織さん、こんなショボショボのバカ兄貴だけど、よろしくしてあげてね」


「任せて」


 いつもの場所で衣織を見送り、僕たちも家路に着いた。




 ——「なあ兄貴」


「うん?」


「ルナって……兄貴だろ」


 なに……バレてただと?


「凛お前……もしかして?!」


「最初から分かってた。双子だから分からない筈がないだろ……しかも凛より女っぽい仕草だったし、そっちの趣味でもあんのか?」


 これは怒ってる……相当怒ってる……。


「高校生活エンジョイするのはいいけど、家族に恥、かかせんなよ?」


 すんごい冷たい目で睨まれた。……怖い。


「聞いてくれ凛! アレはだな!」


「なに? 凛にいいわけするの?」


 しまった……凛はいいわけとかする輩が滅茶苦茶嫌いな、男前な性格だった。


「ごめんなさい……以後気をつけます」


「相変わらず、断れない性格なんだな兄貴は……だから愛夏にもフラれるんだよ」


 胸に突き刺さる一言……凛さん……家族でも言っていいことと悪いことがありますよ。


「衣織さん……いい人だな」


「うん」


「今度は離しちゃダメだからな」


 今度は離しちゃダメだからなってどう言うことだ? まるで僕のせいで愛夏が離れて行ったような口ぶりじゃないか。


 まあ、他に好きな人が出来たってのはそれと同義か……。


 凛が突然やってきたことには驚いたが、以前のように侮蔑的な態度を取られなかった事に一安心した僕だった。


 ギターを再開したからだろうか。


 いずれにせよ衣織のおかげだ。




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