第59話 涙のありがとう
部室に着くと皆んな揃っていた。凛騒動で手間取った僕が1番最後だった。そして皆んな一様に驚いていた。
『『ルナちゃん』』
凛の外見がルナそっくりだからだ。
「コイツは凛です。僕の双子の妹なんです。見学させてもいいですか?」
『『妹!』』
「うん……うちは構わないけど……」
部室に入っても周りをキョロキョロ見回しているだけの凛を肘で突き、挨拶を促した。
「ああ、凛です。音無 凛です。バカ兄貴がいつもお世話になっています」
「バカはいらねーって」
「そう、事実なのに」
「くっ……」
「それよりさっきから気になってるんだけど……何でみんな私のこと『ルナ』って呼ぶの」
これはいきなりピンチだ。女装していたなんて家族には知られたくない。トップシークレットだ。
僕はみんなに目配せしながら首を横に振り、内緒にしてほしい意思をアピールした。
でも、届かなかった。結衣さんがにやけ顔でスマホを取り出し凛に動画を見せた。
「な……」
流石の凛も身内の痴態に言葉を失った様子だ。
「可愛い……」
意外な反応だった。
「この娘、私に似てるけど、仕草とか女の子っぽくて超可愛い!」
おや? もしかして気付いてない?
「しかも何これ、兄貴より全然ギター上手くない?」
おいおい、マジで言ってんのか? 真偽の程は分からないが、とりあえずセーフのようだ。
凛は前回のライブ動画を食い入るように見ていた。
「で、この娘はどこにいるの?」
僕は全力で首を横に振った。みんな超ニヤニヤしている。この状況を楽しんでいるようだ。
「ルナはたまにしか来ないの」
衣織が助け舟を出してくれた。
「そうなんだ、残念……合わせてみたかったな」
「凛さんもギターを? 合わせるなら、お兄さんもルナに引けを取らないと思うけれど?」
「バカ兄貴は、こんなにエモいギター弾けませんよ」
「あら? そうでもないわよ? 聴いてみる?」
「そうね、久しぶりに兄貴の残念なプレイ聴いてあげるわ」
ひどい言われようだ。
でも、あの時の僕は本当に酷かった。凛はそれを知っているのだから仕方ない。
——僕と衣織は凛の前で動画とは違う曲をチョイスしてやってみせた。
僕は衣織の歌に変化を感じた。
明らかに良くなっている。これまで以上に大胆にプレイすることができた。
僕のギターが衣織に引っ張られるように感じた。
——そして、演奏が終わると、凛は衣織の手をとり「ありがとう」と涙した。
凛の涙に皆んなは戸惑っていた。
でも、僕には凛の気持ちが痛いほど分かった。
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