第58話 音無 凛
それはある放課後の出来事だった。
「ルナちゃん!」「ルナちゃん!」
中庭辺りからルナへ送られる声援が聞こえてきた。
ルナだと……僕はここにいる。
……なぜ?
今から部活だけど、嫌な予感しかしなかったので、とりあえず中庭へ向かった。
「
声援の中心に居たのは双子の妹、凛だった。アイツはショートヘアーのはずだったが、向こうへ行ってから伸ばしたのだろうか。ルナと同じぐらいのセミロングになっていた。
さすが双子。同じ髪型だとルナにそっくりだ。
「あっ、兄貴」
『『兄貴!?』』
変に注目を集めてしまった。
「ひさしぶりだね、凛」
『『凛』』
「何だよテメーら人の名前呼び捨てにしやがって」
ギャラリーに食ってかかる凛。早く止めないと。
「よせって、凛」
「あ?」
凛は僕に突っかかってきた。
とりあえず凛の手を取って、人目につかない場所まで移動した。
「なんで凛がここにいるんだよ? 来るのは夏休みじゃなかったのか?」
「夏休みだよ」
「え、だってまだ5月だぞ?」
「それ、何のギャグだよ……日本と向こうは違うんだぞ?」
「え……」
どうやら向こうは5月中頃から9月までが夏休みとのことだ。普通に知らなかった。
「鍵ないんだよ、一緒に帰ろうぜ」
鍵を渡してもいいのだが何か不安だ。
「今から僕、部活なんだよ。終わるまで待てない?」
取り合えずどこかで待っていてもらおう。
「部活? 部活ってなにやってんだ?」
「軽音部……」
「軽音部だと……」
凛の表情が険しくなった。実はギターをやめる時、僕と凛は大喧嘩になった。
ギターを続けて欲しかった凛。
それを聞かなかった僕。
凛が僕に対して侮蔑的な態度をとるようになったのはその頃からだ。
「またギターはじめたんだ……」
「うん……」
「そっか」
満面の笑みを浮かべる凛。ちょっと意外な反応だった。
僕はもっと責められるものだと思っていた。
「兄貴がギター弾いてるとこ見てみたい! 一緒にいっていいか?」
「僕は構わないけど……ここは学校だからな、部外者は立ち入り禁止だぞ」
「凛は家族だ。問題ない」
「あはは……相変わらずだな……部の皆んなに聞いてみるよ」
「おっけー!」
僕は凛を伴って部室に向かった。何も問題を起こさないでくれればいいのだが。
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