第50話 家に寄っていかない?

 僕は徒歩通学なので、衣織と駅まで一緒に行くのは初めてだ。衣織は景色が好きだからという理由で、駅からは遠回りなこの通学路を利用している。つまりこの景色が僕たちを引き合わせてくれたとも言える。


 実際に歩いてみると衣織がここの景色が好きだというのが分かる。風情があるとというのだろうか。凄く新鮮な気分になれる。


 僕の最寄駅から2駅離れた衣織の地元。そんなに遠くはないのに馴染みはない。何故なら衣織の地元は高級住宅街だからだ。


「ありがとう鳴、ここが私ん


 結衣さんのマンションもヤバかったけど、衣織の家もかなりヤバい。2人とも天が色々与えすぎだ。神様は本当に不公平だ。


「立派なお宅ですね……」


 どこの主婦だよ!ってコメントしか出てこない。


「じゃ、衣織、僕はここで。今日は本当にごめんなさい。また明日からよろしくお願いします」


「ううん、私の方こそ引っ叩いちゃってごめん。もうちょっと冷静に話せるようになります」


 うん、確かにあれは痛かった。廊下で体当たりされる方がマシだったまである。そんなことは言えるはずもなく……。


「あはは、じゃ、また明日」


 笑ってごまかす僕だった。


「待って鳴」


「はい」


「家に寄っていかない? 両親いるけど「寄ります!」」


「食い気味に来たわね……分かりやすくていいけど」


「ご両親は緊張しますけど、衣織の部屋……入れるんですよね!」


「え……ええ勿論」


「是非寄らせてください!」


 デートの時に寄れなかった雪辱を晴らしたい。この時に備えて僕はあれから課題は貯めないようにしている。むしろ休み時間にやっているぐらいだ。


「じゃ、先に両親に話してくるね」


「はい」


 そう言えば衣織のご両親ってどんな方なんだろう。


 こんな立派なお宅に住んでいるのだから、やっぱり厳格な人なのだろうか。


 つか、なんて挨拶すればいいんだ。


『娘さんとお付き合いさせていただいている、音無です』


 ちょっと硬すぎ? お付き合いより交際? もっとフランクに付き合ってる? 彼氏?


 衣織のご両親のことを考えると緊張してきた。


 勢いで寄っていくと言ったはいいが、この待ち時間でこんなにも緊張することになるとは思わなかった。


 

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