第48話 僕はもう間違えない——鳴の場合

 自分でも驚くほど大胆な行動だった。冷静になって考えれば2人の会話を聞いていたわけではないので、先生が犯人だって確証はなかった。


 つまり僕の早とちりだった可能性もある。まあ、その時は土下座でもなんでもして謝罪すればいいのだろうけど……とにかく衣織が無事で良かった。


 今頃になってドキドキしてきた。


「衣織……ごめんね、僕があの時ちゃんと話していればこんなことには」


「ううん、いいのそんなことは」


 衣織がいきなり抱きついてきた。ただでさえドキドキしているのに衣織が抱きついてきたことでドキドキが2倍になった。


 でもここは彼氏としての役割を、しっかりと果たさなければならない。


 僕は衣織をそっと抱きしめた。


「結衣さんとは本当に何もないんだ」


「分かってる。鳴も結衣もそんなことしないって分かってる」


 う……心が痛む……僕は誘惑に負けそうになっていたのだから。


「結衣さんにギターを教えていたんだ」


「結衣にギターを?」


「うん、結衣さん『ロックは人に教えてもらうもんじゃない』って普段から言ってるでしょ」


「うんうん、言ってるね」


「だから皆んなには内緒でって約束してたんだよ」


「そんな、理由だったのね……」


「本当にゴメンね」


「ううん、私こそゴメン。結衣に聞けばすぐに解決する話だったのに」


「違うよ衣織。これは皆んなにいい顔しようとしていた、僕が招いたことなんだ。これからは衣織を第一に考えるよ。もう僕は間違えない」


 ちょっと、くさかったかな……。


「『僕はもう間違えない』って……ラブソングの歌詞に使えそうね」


 ヤバかった。自分で言っておいて寒さに鳥肌が立ちそうになった。紛らわせてくれた衣織に感謝だ。


「確かにそうだね」


 衣織は平静を装っているが震えている。


 流石に怖かったのだろう。


「衣織、今日は家まで送っていくよ一緒に帰ろ」


「え、いいよ、鳴ん家反対方向だし」


「反対って言ってもひと駅だけだし、僕がそうしたいんだよ」


「じゃ、お言葉にあまえようかな」


「うん」


 僕は衣織と手を繋いで駅に向かった。


 色々あったが、仲直りできてよかった。


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