第46話 考えた結果 〜衣織視点〜

 教室に着くと結衣が話し掛けてきたが私は取り合わなかった。いま話すと結衣に矛先を向けてしまいそうだったからだ。


「おはよう衣織」


「おはよう孝太郎」


 彼が幼馴染の孝太郎。幼稚園から高校までずっと一緒で超がつくほどの腐れ縁だ。


「なんか、大変だね」


「そうでもないよ」


「ならいんんだけど……」


「大丈夫よ、問題ないわ」


「僕に力になれることがあったら、何でも相談してね」


「ありがとう」


 いくら幼馴染でも、むしゃくしゃするから1発殴らせてとは言えない。


 ——今日1日色々考えた。


 考えてもう一度鳴と、ちゃんと話し合おうと思った。


 でも今日はダメだ。今日、鳴と会ってしまうと、また感情のまま話して何も解決しないかもしれない。


 というわけで今日の部活はお休みだ。


「結衣、私、今日部活休むから」


「え、あ、うん……衣織ちょっと話せない?」


「ごめん、今日は無理」


 どんな事情があっても無断でサボるのは私のポリシーに反する。結衣とも話したいけど、やっぱり私は鳴から聞きたい。


 鳴に彼氏としての責任を果たしてもらいたい。



 ——1人で帰るなんていつぶりだろう。


 鳴と出会ってから、私の側にはいつも鳴がいた。


「この時間に帰るなんて珍しいですね」


「あ、高見先生」


 高見先生は音楽の先生で、鳴と出会うまでは楽曲の相談にのってもらったり、歌のアドバイスを受けていた。ちなみに軽音部の顧問ではない。


「先生もお帰りですか?」


「ええ、今日は少し用事があって……途中までご一緒してもよろしいですか?」


「もちろん、むしろむしゃくしゃしてたんで、お願いしたいぐらいです」


「最近は私のところに来てくれなくなりましたが、調子はどうですか」


「すこぶるいいですよ、新入部員とユニットを組んだんです」


「噂になってる例の彼ですか?」

 

 高見先生にまで噂になってるなんて。


「ええ、まあ……でも世情に興味のなさそうな先生がよくご存知でしたね」


「あはは、世情に興味がないですか……確かにそうかもしれませんね。でも窪田さんは別ですよ」


「え」


「あなたのような音楽に愛された人に興味をいただくのは、音楽家として当然のとこです」


 そういう意味か……よかった。


「でも彼もひどいですね。窪田さんのような魅力的な女性と付き合っていながら、他の女性にも手をだしていただなんて、しかも2人も」


 なんで先生が……先生も学園SNSを見ている?


「先生方までご存知なんですか?」


「窪田さんは有名人ですから、嫌でも噂は入ってきますよ」


「なんか、恐縮です」


「しかも、デートの帰りに他の女性と会うなんて言語道断ですよね」


 ん? なんでそれを先生が知っている。


 もしかして、学園SNSで鳴を晒したのは先生?


 私は先生と一緒にいるのが怖くなってきた。


 鳴来て……今すぐ。


 心細くなって1番頼りにしているのは、やっぱり鳴だとわかった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る