第42話 レッスン1結衣の場合

 いきなりラッキースケベイベントが発生したが、気を取り直してレッスンを開始した。


 結衣さんの悩みは僕の睨んだ通り、ギターに歌が釣られる事だった。


 これに関しては僕も完璧ってわけじゃない。複雑なフレーズだと釣られることもしばしばだ。しかし、結衣さんのバンドの様なシンプルなロックなら、知識である程度回避可能だ。


 ただ、結衣さんバンドの曲はどの曲も速いので、慣れは必要だ。


 僕は実演してコツを伝授した。


「なるほど、そういう事だったのね!」


「はい、そういう事です」


 結衣さんは飲み込みが早く、教えた事をサクッと吸収してしまった。


 可愛い上にスペックも高くてお金持ち。つくづく世の中は平等じゃない。


「ねえ、鳴が衣織の曲で使ってるオシャレコードってどうやって押さえてるの?」


「コレのことですか?」


 実演して見せた。


「そう! それそれ」


 結衣さんがズイっと近付いて来た。


 いつも思うのだが、結衣さんはいとも簡単に僕のパーソナルエリアを侵食する。


 相変わらずすごく良い匂いだ。


 そして、部屋着の結衣さん。この角度だと、胸が見えそうです。


「あれ、鳴……今ガン見てたよね」


 ジト目の結衣さん。


 思いっきりバレてしまっている。


「いや、そんなつもりじゃ」


「うん、じゃぁ、どんなつもりなのかな? お姉さんに言ってみ?」


「そのつまり……なんて言うか」


 もうタジタジだ。


「ねえ鳴、教えてもらったお礼に見せてあげようか?」


 際どいラインまでシャツの裾をまくりあげる結衣さん。すごく綺麗な肌だ。


 ゴクリと生唾を飲み込む僕。この刺激は危険だ。


「か……からかわないでくださいよ!」


 これが精一杯の抵抗だった。


 だが、結衣さんはさらにズイっと寄ってきて耳元で囁く。


「イイよ鳴だったら……」


 結衣さんの吐息まじりの声にぞくっとしてしまった。


 ど……どうしよう、衣織ともまだなのに、もしかしてこのまま僕は……。


「鼻の下伸ばしすぎたよ? 鳴」


 結衣さんにデコピンされてしまった。


 どうやら盛大にからかわれたみたいだ。


「普通に考えて親友の彼氏に手だすわけないじゃん」


 言われてみればそうだった。


 はじめてのレッスンはどちらが先生か分からないままに終わった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る