第40話 愛夏の気持ち

 衣織とのデートから帰ってくると、自宅近辺で愛夏が僕を待っていった。いつも愛夏と待ち合わせをしていた思い出の場所でだ。


「愛夏……どうしたの? まさか僕を?」


「うん、鳴を待ってたの」


「待ってたのってなんで……僕たちもう別れただろ……」


「うん、そうね」


「だったら何の用なんだ?」


「彼女ができた幼馴染を祝福に来たらだめなのかしら?」


 コイツなに言ってんだ……自分からフッておいて。


 僕は少し頭にきた。


「ダメに決まってるだろ……だいたい愛夏のことを忘れるのに、僕がどれだけ苦労したと思ってるんだよ」


 沈黙の後、愛夏が小さな声で呟いた。


「そっか……鳴はもう忘れられたんだね……私はまだ忘れられないよ」


 心なしか愛夏の表情が沈んでいるように見えた。


「え……」


 いま愛夏なんて言った?


 忘れられないって言った?


 好きな人ができたらから別れたんだよね?


 どういうこと?



 この時の僕には、愛夏がなにを言いたかったのか分からなかった。



「うまくいっていないのか?」


 他にかける言葉が思いつかなかった。


「そんなことないよ」


 なぜか、ほっとした。


「じゃぁ、私いくね」


「待てよ……何か用があったんじゃないのか?」


「うん、もう大丈夫。鳴の顔が見たかったの」


「じゃあね」


「ちょっ……愛夏」


 フった男の顔が見たいって……どんな気持ちなんだよ。


 ——どんな気持ち。


 そういえば僕は、フラれたことでいっぱいいっぱいになって、愛夏の気持ちを考えたことなんてなかった。


 愛夏はなぜ心変わりしたのだろうか。


 本当に仲が良くて毎日笑いあっていた。


 愛夏と別れることになるなんて想像したこともなかった。


 愛夏もあの日までそんなそぶりは見せていなかった。


 ……そもそも毎日一緒に居て、他の男を好きになるなんて可能なのか?


 相手の男は一体誰なんだ?


 同じ中学なのか?


 つか、同じ中学以外ありえない。暇さえあれば愛夏は僕の家に来ていたし、他校の生徒と交流する余裕なんてなかったはずだ。



 まさか、ユッキー?



 だめだだめだ、親友と幼馴染を疑ってどうする……。


 愛夏の不可解な行動に少し胸騒ぎがしたが、僕は考えるのをやめた。


 どんな理由があったにせよそれが愛夏の選択で、僕には衣織がいるのだから。

 

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