第39話 はじめてのちゅー

 心臓が止まるかと思った。ラブコメなんかでよくあるシーン。頬についた米粒を彼女がとってそのまま口にする。これの破壊力は凄かった。お店を出たというのにまだドキドキが止まらない。


 ラブコメの神様は、なんて心臓に悪いイベントを考えるのが得意なんだ。


 もし僕が心臓に持病を抱えていたら、きっと今日が命日だったに違いない。朝から衣織にドキドキさせられっぱなしだ。


 午後からのデートもショッピングが中心だった。


 雑貨屋さんでピックケースに使えそうな小物入れをお揃いで買ったり。ライブの時につけるアクセサリーを選びあったり、少し音楽によっているけど楽しい時間をすごした。


 夕方になると僕の足は棒になっていた。衣織はまだまだ元気そうだ。


 愛夏と付き合っている時も思ったが女子はなぜ買い物になると、こんなにも体力があるのだろうか。謎すぎる。


「鳴はもう疲れたかな?」


「いえ、まだまだいけますよ!」


 もちろんまだまだは無理だ。


「無理しなくていいよ。例の公園で休憩しよ」


「はい」


 例の公園とはもちろん告白した公園だ。僕たちはゆっくりと公園に向かった。


「楽しかったわ。なんか久しぶりに充実した1日だった」


「僕もです」


 本当にそうだ。こんなにも待ち遠しかった週末も本当に久しぶりだった。


「明日からはまた、部活ね」


「はい」


「鳴って、家に帰っても1人なの?」


「そうですね……」


「家……来る? 両親いるけど」


 行きたい! めっちゃ行きたい! でも……。


 僕は今週、デートの下調べに時間を費やし課題に殆ど手をつけていなかったのだ。


「お誘いありがとうございます。でも、課題まだやってなくて……」


「そ……そう」


「すみません! 今度はちゃんとやっときます!」


「いいの、いいの、じゃあ帰ろうか」


 名残惜しいが仕方ない。


「はい」


 その刹那、頬に柔らかい感触が……。


「今日頑張ったご褒美ね」


 ほっぺにキス……。ありがとうございます!


 今日1番のドキドキだ。


「あ……ありがとうございます」


「ありがとうございますってなによ……もっと気の利いた言葉はないの?」


「あ……頭が真っ白で……嬉しいです」


 この後のことはよく覚えていないが、

 僕と衣織の初デートはとても印象深いものとなった。


 僕は今幸せだ。


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