第37話 緊張のランチ
ついにこの時がやってきた。
ランチの時間だ。
今日のデート最大の山場といって過言ではない。
普通ならランチで午前中の疲れを癒し、午後に向けての鋭気を養う。
でも、僕の場合はそう簡単ではない。
なぜなら僕は……食べ方が汚いからだ。
自他共に自覚はある。
元カノの愛夏にも、いつも口を酸っぱくしてダメ出しされていた。
学校では毎日のように衣織とランチを共にしているが、それは隣り合わせで座っているから成立しているのであって、今日のように正面に向き合って食べるとなると話は別だ。
かといって公共の場で隣り合って座るのも気恥ずかしい。
緊張する……。
まずはメニューからだ。ここが第一関門だ。ここで選択をミスってしまうと目も当てられない結果になってしまう。
とりあえず、パスタは危険だ。
僕にはスプンとフォークでクリクリするあのテクニックがないからだ。仮にそれができたとしても、適正量がわからないので、かなり口を汚してしまう。スプーンとフォークでクリクリする時に力加減を間違えて、あの嫌な金属音を鳴らしてしまう危険性もある。
パスタだけは何としても避けなければいけない。
そして汁物も危険だ。
これは言わずもがなだろう。いくら気をつけていても、すする音が出てしまうことがある。
比較的テクニックを要さないサンドイッチでも、僕にかかれば具がムニュっと出てきて激しく手を汚してしまう可能性もある。それにいくら食の細い僕でも『これしきの量で満足してしまうの?』なんて思われてもつまらない。
あまり悩みすぎると衣織を待たせてしまうことになる。
時間は刻一刻と迫っているのだが、メニューは決まらない。
『この中で1番リスクの少ないおすすめを教えてください』と店員さんに伺いたいのが本音だ。
「ねえ鳴、せっかくだから少しづつ頼んでシェアしない?」
な……なんだって……。
シェアするとなると、僕の今までの考えが全て水泡と帰す……かといって断る理由もないし、断れるはずもない……。
「いいですね、そうしましょう」
これは仕方ない。勇気ある撤退と同義だ……。
「鳴は食べられないものある?」
「好き嫌いなく何でも食べます」
「じゃ私のおすすめでいいかな?」
「はい」
僕は衣織に全てを委ねた。いや、委ねるしかなかった。
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