第27話 アイドルユニット誕生

 鏡に映った僕は別人だった。なんだろうこの気持ち……少しだけ女装する人の気持ちが分かった気がする。


「んじゃ、行こっか」


「ちょ、ちょっと待ってください! もう少しだけ心の準備を!?」


「ダメダメ、そんなグズグズしてたら皆んな帰っちゃう」


 結衣さんの言うことはもっともだ。だが願わくばクラスメイトとだけは会いたくない。


 人生初の女装、人生初のスカート。


 恥ずかしい、普通に恥ずかしい、スースーする感覚が余計にそれを感じさせる。こんな状態で、歌えるのだろうか。ギターを弾けるのだろうか。


「ねね、名前何にする?」

 ノリノリの智子さん。


「鳴を逆にしてルナでいいんじゃない?」

 適当感半端ない衣織。


『『いいね!』』


 1発採用だ。今日の僕はルナです。


 校門近くのちょっと広場になったところで僕たちは陣取った。ちなみにここに来るまで、誰にも気づかれなかったが、男子からはいつもの刺すような視線ではなく、好意的で熱い視線が送られた。


 簡易的とはいえ、衣織との初ライブだ。女装だけど……。


 僕たちは何の前置きもなく演奏を始めた。


 衣織の歌にオーディエンスが集まりだした。


 衣織の歌を邪魔しないように、声量を抑えながら、くどくならない範囲でハモりをいれた。僕のレベルだとギターで複雑なフレーズをいれてしまうと、どちらかに気をとられてしまう。


 ギターはコードストロークで強弱を整えオカズ的なフレーズは抑えた。


 衣織の声に僕の声が絡む。今までになかった高揚感が僕を包む。衣織も同じように感じているのかボルテージが上がっていく。同じ温度感で同じテンション且つ衣織を引き立てるように。


 デュオの経験なんてなかった。これはスリリングだ。楽しい。


 僕は女装していることを忘れて、心のまま歌いきった。


 僕たちの演奏が終わると、惜しみない拍手と声援が送られた。


『『可愛い!』』『『きみ誰?』』『『軽音部のアイドルユニット?!』』


 そして自分が女装していることを思い出した。


「そうだよ! はルナちゃん。軽音部の新人だよ!」


『『うおールナちゃん可愛い!』』


 この後もライブは大盛況だったが、成果はゼロだった。


 僕にひとつの黒歴史が刻まれた日だった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る